COMMENTARY FOR
HYMN II. PROTHYRAIA

プロテュライアー(Προθύραια Prothyraia)

この単語の意味は、「戸の前」。 本文だけでは、この名前がなぜ出産に深くかかわるのかが判然としない。 辞書には「アルテミスの異称」とあり、引用元として本讃歌の4行目と12行目が挙げられている。

我に耳を傾けよ

原語ではκλῦθι μοικλῦθιは「聞く」という意味の動詞κλύωの2人称単数アオリスト命令法能動態の形。 μοιは「私」を意味する代名詞ἐγώ男性または女性単数与格アオリストとは過去に起こったという事実を述べる時称だけれども、命令法においては時称による時間的な差異は特にない由。

いともおごそかなる女神

原語はὦ πολύσεμνε θεά呼格につく間投詞。 πλύσεμνεπολύσεμνοςという形容詞女性単数呼格形。 この語は要するに「たくさんの」を意味するπολύςと、「おごそかな」を意味するσεμνόςの合成語。 θεάは女神を意味する。 主格も同じ形だけれども、ここでは先に間投詞があるので、呼格と判断。 このあと、延々と名前を変えながらの呼びかけが続く。

多くの名を持つ

原語はπολυώνυμε。 多くの名を持つという意味の形容詞πολυώνυμος男性または女性単数呼格形。 続くダイモーンを意味する語がδαῖμον呼格形をとっているので、ダイモーンを形容すると判断。

ダイモーン

超自然的な力を持つ存在。 私たちが「神」としてイメージするギリシア語は男性神がθεός(theos)、女神がθεά(thea)です。 このダイモーンという語はこのように神々に対して使われることもありますし、一般には神として認識されていないけれども、人間にはない超自然的な能力をもつ何かにも使われます。

悪魔を意味するデーモン(demon)はこの語に由来する、といいます。 元々は超自然的な力を持ち、弱いながらも信仰を集めていた何かが、時代とともにデーモニッシュなイメージに変遷していったという意味では、インドのアスラを連想してしまいます。

一人で子を愛するもの

原語ではμονή φιλόπαιςμονήが「一人で(alone)φιλόπαιςが「わが子を愛するもの(loving its young)」の意。

すみやかに安産もたらす者

原語ではἀγανόφρον ὠκυλόχειἀγανόφρονは「雰囲気穏やかな(gentle of mood)」を意味する形容詞。 辞書ツールで検索すると中性単数主格および呼格形容詞と出てくる。 この語の男性または女性主格ἀγανόφρωνで、単数呼格形はやはりἀγανόφρονになる。 この讃歌がプロテュライアーという女神に呼びかけられているものという理解から、女性単数呼格形の形容詞と判断する。

ὠκυλόχειの語でかなり悩む。 辞書にはὠκυλόχειαなる女性名詞の見出し語があり、本讃歌の該当箇所に使用箇所が割り当てられている。 今までの流れを見ても、先行する形容詞のが女性単数呼格であることからも、ここでは女性名詞単数呼格で使われているはずだけれども、この語の単数呼格形はὠκυλόχεια。 ギリシア語では次の単語の語頭が母音であるとき、先行する語の語尾の母音が脱落する。 この語ではαだけが脱落しているが、そういうものなのか??は不勉強のため不明。

助けるもの

原文はἐπαρωγ'。 恐らくはhelperを意味するἐπαρωγόςという男性名詞を女性化したἐπαρωγή。 このままプロテュライアー女神への呼びかけが続くので、男性名詞であるとは考えない。 ηで終わる女性名詞単数主格呼格が同じ形であるが、言葉を変えながら呼びかけを続けているので単数呼格形と解する。 次に母音で始まるἀνίαιςという語が続いているため、語末の母音が脱落している。

鍵を持つもの

原文はκειδοῦχ'holding the keys, having charge of (place)といった意味をもつκλειδοῦχοςという形容詞(男女同形)の単数呼格κλειδοῦχεと解する。 続く語が母音で始まっているので、語尾の母音が脱落している。


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