COMMENTARY of BATRACHOMYOMACHIA

ムーサたち (Μοῦσαι Musai)

ヘーシオドスによれば ゼウスと記憶女神 ムネーモシュネーが9夜に亘って交わった結果 生まれてきた9柱の女神。 文学作品の冒頭で彼女たちに呼びかけ、作品の成功を祈るのは多くの詩人の常套手段。

ヘリコーン山 (Ἐλικών Helicon)

ムーサたちが住むと言われている山。

ギガースたち (Γίγαντες Gigantes)

クロノス ウーラノスの男根を切り取ったときに滴った血から生まれたとされる体躯巨大な 巨人族。

ピューシグナトス (Φυσίγναθος Physignathos)

蛙の名前。 英訳での訳文はPuff-jaw

ペーレウス (Πηλεύς Peleus)

ピューシグナトスの父蛙。 この名前は、トロイア戦争で活躍した アキレウス の父と同じ名前です。 しかし、ここではギリシア語のペーロス(πηλός pelos)つまり英語のclayにかけた名前で あるようです。 英訳による名前はMud-man。 ドロンコ男とでもいったところでしょうか??

もちろん、ピューシグナトスアキレウス のある一面をパロディとして投影する、という作者の意図もあるのでしょう。

エーリダノス (Ἠριδανός Eridanos)

神話伝説中に登場する架空の河。 ローヌ/ポー河ともドナウ/ライン河ともとれるような位置にあるという。 アゴナウテース (アルゴ号の冒険者たち)は、 この河を通って北海に出たとも いわれているらしいです。

ヒュドロメデューサ (Ὑδρομεδούσα Hydromedusa)

ピューシグナトスの母親。 ヒュドール(ὕδωρ hydor)は 水の意。 メデューサ(Μέδουσα medusa)は統治するという意味の動詞メデオー( μέδεω medeo)から 派生した単語で、女支配者または女王の意。 英訳での訳語はWater-lady

プシーカルパクス (Ψιχάρπαξ Psicarpax)

本編の発端となるネズミ。 彼の溺死がタイトルにもなった蛙とネズミの戦争の引き金となる。 英訳の訳文はCrumb-snatcher

フシギなことに、後に起こる蛙との戦闘中の描写に同名のネズミが登場する。 作者の勘違いなのか、古代ギリシア人は名前を祖父からとることが多かったので、 それこそネズミ算式に増えているであろう別のネズミの名前なのかは不明。

トロークサルテース (Τρωξάρτης Troxartes)

プシーカルパクスの父ネズミ。 英訳による訳文はBread-nibbler

レイコミュレー (Λειχομύλη Leicomyle)

プシーカルパクスの母ネズミ。 英訳による訳文はQuern-licker

プテルノトロークトス (Πτερνοτρώκτος Pternotroctos)

プシーカルパクスの母方の祖父にあたるネズミ。 レイコミュレーの父ネズミ。 英訳による訳文はham-gnawer

食することはない

冒頭でプシーカルパクスはイタチから逃げてきたことを思い出してください。 彼は、このイタチと出くわすことを最も怖れ、また、蛙とネズミでは食べるもの が違うというのに、どのように饗応するのかといぶかっているようです。

ゼウス (Ζεύς Zeus)

あまりにも有名なギリシア神話の神。 オリュムポス神群の主神

雄牛

ゼウス エウローペーを誘惑するときに姿を変えた雄牛のこと。

エウローペー (Ἐυρώπη Europe)

ヨーロッパにその名を与えたフェニキアの王 アゲーノールの娘。

クレータ島 (Κρήτη Crete)

地中海に浮かぶ島。 ミーノタウロスを閉じ込めた ラビュリントスはこの島にあった。

レイコピナクス (Λειχοπίναξ Leichopinax)

プシーカルパクスの最期を見届け報告したネズミ。 英訳による訳文はLick-platter

アレース (Ἄρης Ares)

ギリシア神話の戦争の神。 ローマ神話のマールスと同一視される。 性格は単純で、どちらかというと力押しの戦闘を好む。 神のくせに、多くの英雄たちと戦っては傷を負っている。 イーリアスには アプロディーテーとの情事を取り押さえられる件があるので、かなりな色男ではあるハズ。

テュログリュポス (Τυρογλύφος Tyroglyphos)

ネズミの名前。 英訳による訳文はCheese-carver

エムバシキュトロス (Ἐμβασίχυτρος Embasichytros)

蛙の一族に宣戦の布告を告げに来たネズミ。 英訳による訳文はPot-visitor

ケンタウロス (Κένταυρος Centauros)

ギリシア神話に登場する半人半馬の生き物。 上半身は人間であり、下半身は馬であると想像されていた。 ホメーロスには単なる野蛮人として 登場する。 ここでは、この「単なる野蛮人」のイメージにより近いと思われる。 ケンタウロスの語源解釈として(槍などで)チクチクと刺すという意味の動詞 「ケンテオー(κεντέω centeo」 という単語があるから。

辞書による「野蛮人」の語がsavageであることには 注意が必要。 ケイローン ポロス以外のケンタウロスイクシーオーン ヘーラー女神に姿を似せた雲から生まれたので、ギリシア人にしてみればある意味 同族人ではあった。 したがって、辞書にもbarbarianとは書いていない。

アテーナー (Ἀθηνᾶ Athena)

ギリシア神話における工芸の女神。 また戦争の戦略的な面をも反映している。 多くの英雄たちを支援したことでも有名で、 ゼウス はある程度そのような意味合いも込めて、この女神に加勢はしないのか??と訊いているの でしょう。

クロノスの御子 (Κρονίδης Cronides)

ゼウスの別称。 クロノス レアーから生まれた神は他にもいるが、特に ゼウス のことを指す。

ヒュプシボアース (Ὑψιβόας Hypsiboas)

蛙の名前。 英訳による訳文はLoud-croaker

レイケーノール (Λειχήνωρ Leichenor)

ネズミの名前。 英訳による訳文はLickman

トローグロデュテース (Τρωγλοδύτης Troglodytes)

ネズミの名前。 英訳による訳文はTroglodyte

テーブルトークRPGのDungeons & Dragons/ Advanced Dungeons & Dragonsに出てくる 生臭い体液を分泌するウロコとシッポを持つ人間型モンスター、ではないらしい。 英訳の訳語通り「穴居人」くらいの意味。 トローグレー(τρώγλη trogle)が穴(hole)という 意味の名詞。 デュオー(δύω dyo)が 入る(to enter)という意味の動詞。 要するにholeenterする 人くらいの意味。

セウトライオス (Σευτλαῖος Seutlaios)

蛙の名前。 英訳による訳文はBeety

アルトパゴス (Ἀρτοφάγος Artophagos)

ネズミの名前。 英訳による訳文はBread-eater

ポリュポーノス (Πολύφωνος Polyphonos)

蛙の名前。 英訳による訳文はLoud-crier

リムノカリス (Λιμνόχαρις Limnocharis)

蛙の名前。 英訳による訳文はPond-larker

オーキミデース (Ὠκιμίδης Ocimides)

蛙の名前。 英訳による訳文はOcimides。 これはメボウキ(Basil)のことらしいです。

コストパゴス (Κοστοφάγος Costophagos)

蛙の名前。 英訳による訳文はCabbage-eater

テュロパゴス (Τυροφάγος Tyrophagos)

ネズミの名前。 英訳による訳文はCheese-eater

カラミンティオス (Καλαμίνθιος Calaminthios)

蛙の名前。 英訳による訳文はReedy。 辞書による訳文はMinty

ギリシア語でミンター(μίνθα mintha)またはメンテー( μένθη menthe)が オランダハッカを 意味することから、辞書の訳語を採用したいと思います。

プテルノグリュポス (Πτερνογλύφος Pternoglyphos)

ネズミの名前。 英訳による訳文はHam-nibbler

ピルトライオス (Φιλτραῖος Philtoraios)

蛙の名前。 英訳による訳文はCharmer

ヒュドロカリス (Ὑδρόχαρις Hydrocharis)

蛙の名前。 英訳による訳文はWater-larker

プテルノパゴス (Πτερνοφάγος Pternophagos)

ネズミの名前。 英訳による訳文はHam-Nibbler。 ただし、これではプテルノグリュポスとの区別が つかなく なるので、ギリシア語の動詞グリュポー(γλύφω glypho)訳語が to engrave or carveであったので、 プテルノグリュポスHam-nibbler、プテルノパゴスを Ham-eaterとしたいと思います。

ボルボロコイテース (Βορβοροκοίτης Borborocoites)

蛙の名前。 英訳による訳文はMud-councher

プラッサイオス (Πρασσαῖος Prassaios)

蛙の名前。 英訳による訳文はLeeky

ハーデース (Ἅιδης Hades)

ゼウスの兄弟で冥界の支配者。 ここでは、転じて冥界のこと。

クラムボバテース (Κραμβοβάτης Crambobates)

蛙の名前。 英訳による訳文はCabbage-climber

クラウガシデース (Κραυγασίδης Craugasides)

蛙の名前。 英訳による訳文はCroakerson

オリガニオーン (Ὀριγανίων Origanion)

蛙の名前。 英訳による訳文はRueful。 この名前の元になっているギリシア語オリガノン (ὀρίγανον origanon)は マジョラム(マヨラナ)の意。 一方、英訳のRueはヘンルーダの意。 どちらもbitter hervという意味合いが共通している。

メリダルパクス (Μεριδάρπαξ Meridarpax)

ネズミの名前。 英訳による訳文はSlice-snatcher。 メリダルパクスのarpaxはハルピュイア(英語名ハーピー Harpy)の語源と同じ ハルパゾー(ἁρπάζω harpazo)という「掠め取る」という意味の動詞から。 ギリシア語では"H"の音価は語頭に「有気息記号」という 記号がつくだけなので、 実際に"H"を表す字母はありません。 この記号はアポストロフィ" ' "を水平方向に鏡対称に したような形をしています。 (つまり直後の母音に向かって「ヒゲ」が払い降りるような形) メロス(μέρος meros)が a part, shareの意味なので meros + (h)arpazoに人称語尾を 付けてメリダルパクス、ということのようです。

アルテピブーロス (Ἀρτεπιβούρος Artepiburos)

ネズミの名前。 英訳による訳文はBread-stealer

クナイソーノス (Κναίσωνος Cnaisonos)

ネズミの名前。 英訳による訳文はGnawer

パラス (Παλλάς Pallas)

アテーナーの別称。

ティーターン (Τιτάν Titan)

ウーラノスガイア との間に生まれた6柱の男神と6柱の女神。 クロノス ウーラノスの男根を切り取ったとき、「手を伸ばして」(ティータイノー τιταίνω titaino) 大胆な所業を行ったことを罵って、こう呼ばれた。

カパネウス (Καπανεύς Kapaneus)

ヒッポノオスの子。 テーバイを包囲した七将軍の一人。 巨漢の乱暴者で、テーバイ市に火を付けるべく 城壁に登ろうとし、ゼウスも彼を 止めることができないだろう、と大言したために雷霆に焼かれて死んだ。

エンケラドス (Ἐγκέλαδος Encelados)

ギガントマキアーに於いて ゼウス(または アテーナー)にエトナ山を 投げつけられたギガースの一人。

ヘーラー (Ἥρα Hera)

ゼウスの姉にして妃たる女神。 オリュムポス神群中最大の女神。

オリュムポス山 (Ὄλυμπος )

神々が住むを想像されていた山。 同名の山が多く知られているが、マケドニアとテッサリアの国境地帯に聳える山 (標高2885m)に神々が住むと考えられてきた。


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