練習 6.5

課題文

οὐκ ἔφη εἶναι ποιητής, ἀλλὰ κριτὴς τῶν ποιητῶν.

語彙

文中の語 見出語形 品詞 変化形 主な意味
οὐκ οὐ 否定辞 この語は変化しない ~ない
ἔφη φημί 動詞 三人称/単数/未完了/直説法/能動態 言う
εἶναι εἰμί 動詞 不定詞/現在/能動態 ~である
ποιητής ποιητής 男性名詞 単数/主格 詩人
ἀλλά ἀλλά 小辞 この語は変化しない しかし
κριτής κριτής 男性名詞 単数/主格 批評家
τῶν 定冠詞 男性/複数/属格 ποιητῶνにかかる
ποιητῶν ποιητής 男性名詞 複数/属格 詩人

脚注

οὐκ ἔφηは「~ではないと言った」の意。 οὐは母音で始まる語の前でοὐκ、有気母音の前ではοὐχとなる。

出典と翻訳

不明。

メモ

大きな構成として、οὐ A, ἀλλά B (not A, but B)の構造(練習4.8 脚注参照)がある。

まず、Aの部分を読むと、彼(彼女)はφημίした、が基本構造で、ποιητής εἶναιが言った内容。 脚注の内容も考え合わせると、彼(彼女)はποιητήςではないと言った、くらいの意味。

では、Bの内容はと言うと、恐らく重複する表現であるために省略されているであろう、カッコ内に示す語を補って考えるとわかりやすいかもしれない。 それは、(ἔφη) κριτής τῶν ποιητῶν (εἶναι)、がその内容。 つまり、ποιητήςたちのκριτήςであると(彼または彼女は言った)、がBの内容。 ここで、AおよびBでの不定詞の主語は特に対格で示されていないので、話者自身(P. 23, §41. 参照)

まとめると、彼(彼女)は(自分は)ποιητήςではなくてποιητήςたちのκριτήςであると言っていた、くらいの内容が文意。

以上がテキストの内容に忖度した解釈ではあるが、不定詞の内容を否定するのであれば、οὐではなくてμήを使うのが一般的(Smyth §1971参照)のハズ。 なのでここでのοὐは、文法的にはἔφηを否定しているハズではあるが、内容的にはεἶναιを否定しているという、かなりトリッキーな問題。 これは、不定詞の主語が主動詞ἔφηの主語と一致しているため、不定詞の否定辞にοὐをとっていると思われる。

ちなみに、ἔφηを否定していると読んだ場合、彼(彼女)は(自分が)ποιητήςであるとは言っていなかったが(自分は)ποιητήςたちのκριτήςであるとは言っていた、くらいの内容が直訳の文意。 先の解釈と比較して、どう違うのか(または違わないのか)を感じて訳文を推敲してみるのも面白いかもしれない。

Smyth §1971.で言われていることとは

The negative of th infinitive is μή : but οὐ, used with a finite mood in direct discourse, is retained when that mood becomes infinitive in inderect discourse. Sometimes, however, μή is used in place of this οὐ (2723 ff.).

不定詞の否定にはμήが使われる。 しかし、その動詞が直説法などを用いた直接話法で語られていたときの「法(mood)」のニュアンスを不定詞を使った間接話法のときも保持しているような場合には、否定辞としてοὐが使われる。 とはいえ、このようなοὐが使われるべき場合でも、しばしばμήが使われる(§2723.以降の議論も参照のこと)。

というもの。 "finite mood"とは不定詞(infinitive)に対立する概念で、動詞が何等かの法(mood)をとって語形変化をとる状態、つまり直説法とか接続法などを総称したもの。 主に古い文法書だと、不定詞を不定「法」として「法」の1バリエーションと認識していたことに由来する。 たとえばGoodwin, Syntax of the Moods and Tenses of the Greek Verbsの§1.には

The four proper moods, as opposed to the infinitive, are sometimes called th "finite" moods. The subjunctive, optative, imperative, and infinitive, as opposed to the indicative, are sometime called the "dependent" moods.

主要な四つの法(直説法, 接続法, 希求法, 命令法)は、不定詞に対立する概念として「定の」法と呼ばれることがしばしばある。 また、接続法, 希求法, 命令法, そして不定詞は、直説法に対立する概念として「従属的な」法と呼ばれることがしばしばある。

というように書かれている。


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