練習 6.10

課題文

εἰρήνη γεωρφὸν κἀν πέτραις τρέφει καλῶς, πόλεμος δὲ κἀν πεδίῳ κακῶς.

語彙

文中の語 見出語形 品詞 変化形 主な意味
εἰρήνη εἰρήνη 女性名詞 単数/主格 平和
γεωργόν γεωργός 男性名詞 単数/対格 農夫
κἀν κἀν 二語縮合 脚注参照 メモも参照
πέτραις πέτρα 女性名詞 複数/与格
τρέφει τρέφω 動詞 三人称/単数/現在/直説法/能動態 養う
καλῶς καλῶς 副詞 この語は変化しない よく, 美しく
πόλεμος πόλεμος 男性名詞 単数/主格 戦争
δέ δέ 小辞 この語は変化しない さらに, しかし, そして
κἀν κἀν 二語縮合 脚注参照 メモも参照
πεδίῳ πεδίον 中性名詞 単数/与格 平原
κακῶς κακῶς 副詞 この語は変化しない 悪く

脚注

κἀν = καὶ ἐν (cf. §13.2)

出典と翻訳

Μενάνδρος, Fr. 719K。
ギリシア喜劇全集 6 (メナンドロス II), 岩波書店, P.409では断片(作品名不詳断片)779としており、その出典として、ストバイオス, 4. 14. 9を挙げている。 archive.orgで見つけたデータによると、ストバイオスではメナンドロス断片719Kとされており

Εἰρήνη γεωργὸν κἀν πέτραις
τρέφει καλῶς, πόλεμος δὲ κἀν πδείῳ κακῶς [ἔφυ].

としている。

角ブラケット([ ])で囲まれた語 ἔφυ は「ある状態にする, 生じさせる(bring forth, produce)」くらいの意味を持つ動詞 φύω の三人称/単数/アオリスト/直説法/現在。 ここでのアオリストは恐らく「格言の(gnomic)アオリスト」。 ただ、ごく個人的な好みとしては、この語は削除して、前半を繰り返すように γεωργόντρέφει を補って読んだ方が本来の文意に近いのではないかと思う。

もっとも、ἔφυ を付けて読むと、文の後半は「~としてしまうものだ(格言のアオリストによる動作態)」のように読むことができる。 文の内容を一般的事象として言い切る表現が好きな向きはこちらの表現を好むかもしれない。

メモ

κἀνで無気記号のように見えるのは母音縮合(crasis)の記号。 ここでの、καίは「~でさえも」くらいの意味(練習5.6脚注参照)。 ἐνは「~の中で/に」くらいの意味を持つ与格支配の前置詞。

字面が似ている語にκαὶ ἄνを母音縮合した形のκἄνがあるが、こちらは(鋭または重)アクセント記号がつく。 アクセント記号の有無による違いに注意。 ἄν に関しては条件文における結論を表す主文である「後文(apodosis)」に関する議論(P. 87, 第22課, §116.)で出て来る。

前半と後半で同じ構造を持っている、と考える。 前半の内容は、εἰρήνηγεωργόςπέτραにおいてでさえもκαλῶςτρέφωする、くらいの意味。

後半も同じ構造を持つと考えれば、語を補った形は

πόλεμος δὲ (γεωργὸν) κἀν πεδίῳ (τρέφει) κακῶς

と考えることができる。 このときのδέは前半部にμένがないとはいえ前半部との対比を表し、前半部のような内容ではあるがそれに対して、くらいのニュアンスであると思われる。 つまり、(前半部に対して)πόλεμοςγεωργόςπεδίονにおいてでさえもκακῶςτρέφωする、くらいの内容。

まとめると、εἰρήνηというものはγεωργόςを(耕作に不適な)πέτρα(ばかりの土地)においてでさえκαλῶςτρέφωするものだが、対してπόλεμοςは(γεωργόςを耕作に適した)πεδίονにおいてでさえもκακῶςに(τρέφω)してしまう、くらいの内容が文意。


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