練習 16.6

⇒ 練習16.7

課題文

Ἡσίοδος ὁ ποιητὴς τρᾱχεῖαν ἐκάλει τῆς ἀρετῆς τὴν ὁδόν.

語彙

文中の語 見出語形 品詞 変化形 主な意味
Ἡσίοδος Ἡσίοδος 男性名詞 単数/主格 ヘーシオドス(人名)
定冠詞 男性/単数/主格
ποιητὴς ποιητής 男性名詞 単数/主格 詩人
τρᾱχεῖαν τρᾱκύς 形容詞 女性/単数/対格 粗い, 険しい
ἐκάλει καλέω 動詞 三人称/単数/未完了/直説法/能動態 呼ぶ
τῆς 定冠詞 女性/単数/属格
ἀρετῆς ἀρετή 女性名詞 単数/属格 徳, 勇気, 男らしさ
τὴν 定冠詞 女性/単数/対格
ὁδόν ὁδός 女性名詞 単数/対格

脚注

特になし。

出典と翻訳

不詳。

この文章はヘーシオドスの『仕事と日』286-292行を念頭に書いていると思われる。

Σοὶ δ᾿ ἐγὼ ἐσθλὰ νοέων ἐρέω, μέγα νήπιε Πέρση. τὴν μέν τοι κακότητα καὶ ἰλαγὸν ἔστιν ἑλέσθαι ῥηιδίως· λείη μὲν ὁδός, μάλα δ᾿ ἐγγύθι ναίει· τῆς δ᾿ ἀρετῆς ἱδρῶτα θεοὶ προπάροιθεν ἔθηκαν ἀθάνατοι· μακρὸς δὲ καὶ ὄρθιος οἶμος ἐς αὐτὴν καὶ τρηχὺς τὸ πρῶτον· ἐπὴν δ᾿ εἰς ἄκρον ἵκηται, ῥηιδίη δὴ ἔπειτα πέλει, χαλεπή περ ἐοῦσα.
世にも愚かなペルセースよ、わしはお前によかれと思えばこそ語り聞かせているのだぞ。 悪しきことはいくらでも、しかもたやすく手に入る、 それに通ずる道は平らかであり、しかもすぐ身近に住む。 だが不死の神々は、優れて善きことの前に汗をお据えなされた、 それに達する道は遠くかつ急な坂で、 始めはことに凹凸がはなはだしいが、頂上に到れば、 後は歩きやすくなる---始めこそ歩きがたい道ではあるが。 (松平千秋 訳)

メモ

τρᾱκύςἡδύςと同様の変化をする。 その変化を学ぶことが、この課の大きなテーマの一つ。 課題文の意味自体は「ποιητήςであるἩσίοδοςは、ἀρετήὁδόςτρᾱκύςκαλέωしている」、くらいの意味。

先に挙げた箇所を念頭に解釈すると、訳語に関しては、テキストの語彙欄にある訳語だけで考えると、かなり違和感を感じることになる。 特にἀρετήは辞書に出て来るexcellenceと考える方がよいだろう。 ここでのἀρετήκακότης(悪いこと)に対立する概念。

289-290行目のコロンまでを直訳すると、神々(θεοὶ)はἀρετή(前置詞προπάροιθενが属格を要求)の前に(προπάροιθεν)汗(ἱδρώς)を置いた(τίθημι)、くらいの意味。

『仕事と日』は、父の遺産に関して一度きちんと分配したにも関わらず、何度も訴訟をおこして少しでもせびり取ろうとする不実な弟ペルセースに、労働の大切さを諄々と説く、というシチュエーションで語られるもの。 それゆえκακότηςに込められた意味としてはa)社会通念として悪徳とみなされること、b)人間の生き方として劣っているという価値観、などが入り混じっているように感じる。

それに対立する概念のἀρετήは、テキストに出て来る訳語としては「徳」が一番近いとは思うのだが、やはりここでもA)正義にもとるような行動はしない、B)人間の生き方として立派なという価値観、などが入り混じっているように感じる。

そしてそのよう(ἀρετή)な状態であれば、他人の財産を狙って何度も言いがかりをつけるようなことは必要なくなる。 とはいえ、そこ(ἀρετή)に達するためには労働(汗)が不可欠で、最初のうちは困難に感じることが多いであろう、というニュアンスに感じるのだ。

そうしたἀρετήにどのような訳語を充てるのがふさわしいのか。 『仕事と日』本文で松平千秋は「優れて善きもの」としたけれども。 その判断は個々人で異なるだろうし、異なっていていいのだと思う。


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