ダナオスの50人いる娘の一人。 (アポロドーロス, 2.1.5)
ギリシア語に関する知識がある方には、この名称は違和感を覚えるかもしれない。 この名称は中性名詞であるように見えるからだ。 ギリシア語には文法的性(gender)があり、生物学的性(sex)とは必ずしも一致しないことがある、とはいえ、やはり女性の名称は女性名詞であろう。
しかし岩波文庫の高津春繁訳はドーリオンと表記しており、LoebのFrazer訳もDoriumと中性名詞の語尾を連想するような表記をしている。
Loebの原文を参照すると、この部分はΔώριονと書かれている。 他の姉妹たちへの記述を見てみると、これは単数/対格であろうと思われる。 このとき、そうなるであろう可能性は三つある。
つまり、第二変化という語形変化のグループに属する名詞であるが、想定される語形としては男性形と女性形が同じΔώριος、中性形がΔώριονの二種類となる。
ここで、他の名称の形はないのだろうか、という疑問が起こる。 例えばドーリスやドーリオーンのようなものだ。 特にドーリスであれば、他にもいくつかのキャラクターがこの名前に宛てられている。
しかし一般にドーリスの単数/属格はΔωρίδοςであるから、単数/対格はΔωρίδαであると思われるし、そもそもアクセントの位置が異なる。 ドーリスは語末から二番目の音節(paenultima)にアクセントがあるので、Δώριονのように語末から三番目(antepaenultima)にアクセントが来ることがあるとは考えにくい。
また、ドーリオーンであれば単数/対格はΔωρίοναまたはΔωριῶναではないかと思われる。 したがって、こちらも今回の考慮からは外した。
辞書にはドーリオスという形容詞が載っており、このときの女性形はドーリアまたはドーリオスであることがわかる。
以上のことを勘案し、本サイトではドーリオスである可能性を示唆しつつ、ドーリオンとすることとした。
(2015年10月8日)
父はダナオス。 母はエチオピアの女性。 (アポロドーロス, 2.1.5)
アポロドーロスはペイレーネー、ドーリオン、パルティス、ムネーストラー、エウヒッペー、アナクシビエー、ネーローの母として「エチオピアの女たち」としている。 母親の名前その他は不詳。
アイギュプトスの子ケルケテースの妻に割り当てられたが、初夜に夫を殺した。 (アポロドーロス, 2.1.5)