練習 9.4

課題文

τυφλὸς τά τ᾿ ὦτα τόν τε νοῦν τά τ᾿ ὄμματ᾿ εἶ.

語彙

文中の語 見出語形 品詞 変化形 主な意味
τυφλός τυφλός 形容詞 男性/単数/主格 盲目の
τά 定冠詞 中性/複数/対格 ὦταにかかる
τ᾿ τε 小辞 この語は変化しない 脚注参照
ὦτα οὖς 中性名詞 複数/対格
τόν 定冠詞 男性/単数/対格 νοῦνにかかる
τε τε 小辞 この語は変化しない 脚注参照
νοῦν νοῦς 男性名詞 単数/対格 心, 理性
τά 定冠詞 中性/複数/対格 ὄμματ'にかかる
τ᾿ τε 小辞 この語は変化しない 脚注参照
ὄμματ᾿ ὄμμα 中性名詞 複数/対格
εἶ εἰμί 動詞 二人称/単数/現在/直説法/能動態 ~である

脚注

τε A τε B : 「AもBも」

ex) πατὴρ ἀνδρῶν τε θεῶν τε =「人間にも神々にも父(なるゼウス)」

ここではτεが3つに増え、A, B, Cにあたる語が定冠詞+名詞のため、τεがその間に置かれている。 τεはまたκαίとともに、τό τ᾿ ἄρχειν καὶ τὸ δουλεύειν =「支配することと奴隷であること」、κάλλιστόν τε καὶ ἄριστον =「最善かつ最適」のようにも用いられる。

出典と翻訳

Σοφοκλῆς, オイディープース王, 371

Οἰδίπους

οὕτως ἀναιδῶς ἐξεκίνησας τόδε
355τὸ ῥῆμα; καὶ ποῦ τοῦτο φεύξεσθαι δοκεῖς;

Τειρεσίας

πέφευγα· τἀληθὲς γὰρ ἰσχῦον τρέφω.

Οἰδίπους

πρὸς τοῦ διδαχθείς; οὐ γὰρ ἔκ γε τῆς τέχνης.

Τειρεσίας

πρὸς σοῦ· σὺ γάρ μ᾽ ἄκοντα προυτρέψω λέγειν.

Οἰδίπους

ποῖον λόγον; λέγ᾽ αὖθις, ὡς μᾶλλον μάθω.

Τειρεσίας

360οὐχὶ ξυνῆκας πρόσθεν; ἢ 'κπειρᾷ λέγων;

Οἰδίπους

οὐχ ὥστε γ᾽ εἰπεῖν γνωστόν: ἀλλ᾽ αὖθις φράσον.

Τειρεσίας

φονέα σε φημὶ τἀνδρὸς οὗ ζητεῖς κυρεῖν.

Οἰδίπους

ἀλλ᾽ οὔ τι χαίρων δίς γε πημονὰς ἐρεῖς.

Τειρεσίας

εἴπω τι δῆτα κἄλλ᾽, ἵν᾽ ὀργίζῃ πλέον;

Οἰδίπους

365ὅσον γε χρῄζεις: ὡς μάτην εἰρήσεται.

Τειρεσίας

λεληθέναι σε φημὶ σὺν τοῖς φιλτάτοις
αἴσχισθ᾽ ὁμιλοῦντ᾽, οὐδ᾽ ὁρᾶν ἵν᾽ εἶ κακοῦ.

Οἰδίπους

ἦ καὶ γεγηθὼς ταῦτ᾽ ἀεὶ λέξειν δοκεῖς;

Τειρεσίας

εἴπερ τί γ᾽ ἐστὶ τῆς ἀληθείας σθένος.

Οἰδίπους

370ἀλλ᾽ ἔστι, πλὴν σοί· σοὶ δὲ τοῦτ᾽ οὐκ ἔστ᾽ ἐπεὶ
τυφλὸς τά τ᾽ ὦτα τόν τε νοῦν τά τ᾽ ὄμματ᾽ εἶ.

Τειρεσίας

σὺ δ᾽ ἄθλιός γε ταῦτ᾽ ὀνειδίζων, ἃ σοὶ
οὐδεὶς ὃς οὐχὶ τῶνδ᾽ ὀνειδιεῖ τάχα.

Οἰδίπους

μιᾶς τρέφει πρὸς νυκτός, ὥστε μήτ᾽ ἐμὲ
375μήτ᾽ ἄλλον, ὅστις φῶς ὁρᾷ, βλάψαι ποτ᾽ ἄν.

Τειρεσίας

οὐ γάρ σε μοῖρα πρός γ᾽ ἐμοῦ πεσεῖν, ἐπεὶ
ἱκανὸς Ἀπόλλων, ᾧ τάδ᾽ ἐκπρᾶξαι μέλει.

Οἰδίπους

Κρέοντος ἢ σοῦ ταῦτα τἀξευρήματα;

Τειρεσίας

Κρέων δέ σοι πῆμ᾽ οὐδέν, ἀλλ᾽ αὐτὸς σὺ σοί.

オイディプス
よくも無知無慚にそのような言葉が吐けるな。 その罪をどうやってのがれるつもりだ。

テイレシアス
もうのがれているわ。 まことがおれの力だ。

オイディプス
それを誰から教わった。 お前の占いの術からではないな。

テイレシアス
あなたからだ。 あなたが無理強いにおれに言わせたからだ。

オイディプス
それはどういうことだ。 もっとよくわかるように、いま一度言ってくれ。

テイレシアス
まえにわからなかったのか。 それとも言葉をつないで、もっと言わせようか。360

オイディプス
いや、わかったと言えるほどではなかったのだ。 今一度申してくれ。

テイレシアス
あなたが求めているあの人の殺害者はあなただと言っているのだ。

オイディプス
そのような刺のある言葉をくり返すとは、ただではおかぬぞ。

テイレシアス
もっと怒るように、もっと言おうか。

オイディプス
勝手にするがよいわ、無益むやく雑言ぞうごんだ。

テイレシアス
あなたは一番血のつながりの濃い人と知らずにけがらわしくも交わって、どんな災禍のうちにあるか気がついていないと言うのだ。

オイディプス
こんなことをほしいままにいつまでもほざけるものと思うているのか。

テイレシアス
いかにも、もし真理まことに力があるものなら。

オイディプス
まさしくそのとおりではあるが、お前は別だ。 お前にはない。 耳も心も目もきかぬからな。 371

テイレシアス
ここにいるすべての者が今にあなたを責めるであろうまさにその言葉でおれを責めるとは、あわれなお人よ。

オイディプス
永劫に変わることない一つ夜がお前の運命だ。 それだから、おれをも、光の見えるほかのなんぴとをもけっして害することはできないのだ。

テイレシアス
おれの手にかかってたおれるのは、あなたの運命ではない。 アポロンで十分、これを成就するのはこの神の役目だ。

オイディプス
これはクレオンのか、それともお前の考え出したことなのか。

テイレシアス
いいや、クレオン殿は、あなたにとって何の災厄でもない。 あなた自身が自分に対してそうなのだ。

(高津春繁 訳)

メモ

対格で表されている3つの名詞、ὦτα, νοῦν, ὄμματ᾿が限定の対格である、と理解するのが本課題文の主旨と思われる。 ὄμματ᾿は定冠詞がなければ、単数/与格のὄμματιや「両眼」であることを強調した双数の表現ὄμματε(主格, 呼格, 対格)と読めなくもないが、定冠詞τάがあるので、複数/対格であるὄμματα一択。

もちろんτάは中性/複数/主格を表す定冠詞でもあるので複数/主格と読むことも可能だが、τεを使って等価に繋がれているτὸν νοῦνが明らかに対格で表されているで、ここでは対格と解するのが妥当。

語順を尊重して直訳すると、「τυφλόςなのだ、οὖςにおいても、νοῦςにおいても、ὄμμαにおいても、あなたという人は」くらいの内容が文意。 先に引用した高津訳を参考に、オイディープースの激昂が高まっていく様子を感じとると、こういった語順になるのかもしれない。

高津訳では何か理由のように訳されているのは、直前行(370行)の行末にあるἐπείを含めて訳しているからと思われる。

お話を知らない人がこの部分だけ見ると、なぜオイディープースがここまで激昂しているのか理解できないかもしれない。 これはテイレシアースが自分が母と交わったというニュアンスのことを言ったから。 この時点でのオイディープースの認識は、自分はコリントスの王ポリュボスペリボイアの子である、というもの。

そもそもオイディープースコリントスを離れてテーバイに流れてきたのは、「父を殺し、母と交わるであろう」という神託を恐れたから。 それなのに、すでに「母と交わっている」と言われたので、「そうなることを恐れたからこそ今ここにいるというのに、何言ってんだコイツ」となっている。

さらにラーイオス殺害によってテーバイに災厄をもたらしている張本人が自分であると指摘されて、誰かと結託して王位を奪おうとしているのではと疑心暗鬼になっている状態。 このとき最も疑わしいと彼に思われたのが、スピンクスの謎を解いた者にテーバイの王権と前王ラーイオスの妃イオカステーを与える、としたクレオーン

それゆえ、引用部の最後でオイディープースクレオーンの名を挙げて疑っている。


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