練習 7.5
課題文
Ἴκαρος ὁ υἱὸς τοῦ Δαιδάλου ἔπεσε εἰς τὴν θάλατταν καὶ ἀπέθανεν.
語彙
文中の語 | 見出語形 | 品詞 | 変化形 | 主な意味 |
Ἴκαρος | Ἴκαρος | 男性名詞 | 単数/主格 | イーカロス |
ὁ | ὁ | 定冠詞 | 男性/単数/主格 | υἱόςにかかる |
υἱός | υἱός | 男性名詞 | 単数/主格 | 息子 |
τοῦ | ὁ | 定冠詞 | 男性/単数/属格 | Δαιδάλουにかかる |
Δαιδάλου | Δαίδαλος | 男性名詞 | 単数/属格 | ダイダロス |
ἔπεσε | πίπτω | 動詞 | 三人称/単数/アオリスト/直説法/能動態 | 落ちる |
εἰς | εἰς | 前置詞 | この語は変化しない | (対格)に向かって |
τήν | ὁ | 定冠詞 | 女性/単数/対格 | θάλαττανにかかる |
θάλατταν | θάλαττα | 女性名詞 | 単数/対格 | 海 |
καί | καί | 小辞 | この語は変化しない | そして |
ἀπέθανεν | ἀποθνῄσκω | 動詞 | 三人称/単数/アオリスト/直説法/能動態 | 死ぬ |
脚注
特になし。
出典と翻訳
不明。
お話としては有名な、イーカロスの顛末を要約したもの。 ただし、これと同じ文を見つけることはできなかった。
メモ
ἀπέθανενがἀποθνῄσκωの第二アオリストとして読めることが、この例題の目的。 前綴りἀπόの語末母音が加音εが続くことで脱落し、第二アオリストの語幹θαν、語幹形成母音ε、付加音のνが続く。 動詞のアクセントは後退的で、アクセント規則の範囲内で語末から遠ざかろうとするので、加音のεにアクセントが来る。 εはantepaenultimaにあるので、アクセントは鋭アクセント一択。
ホメーロスのような韻文では省略されることも少なくないが、加音は動詞変化における過去性を示唆するもの。 したがって、動詞がとる人称語尾は副時称のものが使われる。 このとき語末のνが人称語尾であるならば、語幹形成母音はoでなくてはならない(P. 18, §29.)。 したがって語末のνは付加音のνであって、人称語尾ではないことがわかる。
P. 22, §36. の能動態での人称語尾の表を見ると、副時称で人称語尾をとらないのは三人称/単数のみ。 単語欄を見るとἀποθνῄσκωのアオリストは第二アオリストをとり、ἀπέθανονとなっていることから、a) 加音をとり、b) 語幹が一致していることから、第二アオリスト形であろうことがわかる。 したがって、この語はἀποθνῄσκωの三人称/単数/第二アオリスト/直説法/能動態とみることができる。
ἔπεσεの方はπίπτωの第一アオリスト。 πίπτωの語幹はπ(ε)τで、語頭のπιは畳音、他のものと融合した人称語尾のωで構成されている。 畳音は完了系で使われるものが有名だが、現在形でも使われているものがある。 他に現在形でιを伴った畳音を持つものには、γίγνομαι(生じる, 生まれる)やτίθημι(置く)などがある。 つまり、本来アオリスト形はἔπετσεであったものが、語幹末尾の子音であるτが時称接尾辞のσが続くことで脱落(P. 22, §38.1およびP. 19, §30.3参照)してἔπεσεになていることがわかる。
ここでのアオリストは単に過去の事象を述べていると思われるので、「ΔαίδαλοςのυἱόςであるἼκαροςはθάλατταに向って(εἰς)πίπτωした、そして(καί)、ἀποθνῄσκωしてしまった」、くらいが文意。