練習 7.6

課題文

ὁ κόσμος σκηνή, ὁ βίος πάροδος. ἦλθες, εἶδες, ἀπῆλθες.

語彙

文中の語 見出語形 品詞 変化形 主な意味
定冠詞 男性/単数/主格 κόσμοςにかかる
κόσμος κόσμος 男性名詞 単数/主格 宇宙, 世界
σκηνή σκηνή 女性名詞 単数/主格 舞台
定冠詞 男性/単数/主格 βίοςにかかる
βίος βίος 男性名詞 単数/主格 人生
πάροδος πάροδος 男性名詞 単数/主格 わき道, 通過, 登場
ἦλθες ἔρχομαι 動詞 二人称/単数/アオリスト/直説法/能動態 行く, 来る
εἶδες ὁράω 動詞 二人称/単数/アオリスト/直説法/能動態 見る
ἀπῆλθες ἀπέρχομαι 動詞 二人称/単数/アオリスト/直説法/能動態 立ち去る

脚注

特になし。

出典と翻訳

不明。
ただしこの文はデーモクリトスの断片(115.3 DK)とも。 (リンク先のページ上部に[DEMOCRATES]と書いてありますが、ここはまだDEMOCRITUS断片の続きです)

15世紀ころの人Michael ApostoliusParoemiae(箴言集) 14.26にも見えるが、こちらではデーモクリトスの言とはされていない模様。

メモ

ἦλθες, εἶδες, ἀπῆλθεςのそれぞれが第二アオリスト形で、この形をきちんと把握することが、この例文の主旨と思われる。

λθεςἔρχομαιの第二アオリスト。 ἔρχομαιの第二アオリストでの語幹はελθで、これが時量的加音(P. 21, §34.2)をとってηλθになる。 ε語幹形成母音。 能動態の副時称で人称語尾ςなのは、二人称/単数(P. 22, §36)。 したがって、この形は二人称/単数/第二アオリスト/直説法/能動態。

εἶδεςὁράωの第二アオリスト。 ὁράωの第二アオリストの語幹ιδなので、原則通りならば時量的加音をとってδのようになるハズ。 そうなっていないのは、本来は語幹の先頭に失われた子音があったため、と考えられる。 それがどのようなものかというと、ラテン語で「見る」を意味する動詞がvideoであることなど、他の古い印欧語との連想からw音を表すϝ(ディガンマ)ではなかったのか、と思われる。

脱落した子音があったであろうとはいえ、加音語幹先頭の母音が連続することで複母音ειを作り、アクセントが語末から遠ざかろうとして複母音の第一母音である加音εにくるため、εἶδεςのような形になっている、と思われる。 語幹形成母音以降は、先に示したἦλθεςと同じで結局この語形は二人称/単数/第二アオリスト/直説法/能動態。

ἀπλθεςἀπέρχομαιの第二アオリスト。 つまり最初に見たλθες前綴りとしてἀπόがつき、その前綴りの末尾母音が直後に母音が続くために脱落したもの。 ἀπόは多くの場合、分離のニュアンスを持つが、ここでもやはり(今いる場所から)立ち去っていくという分離の意味を持っているように思える。 ここでも語形はやはり二人称/単数/第二アオリスト/直説法/能動態。

多くの場合、このアオリストを単純過去として訳しているようである。 墓碑銘なら、それで適切かもしれない。 しかしそのようなものではないのなら、少し違ったニュアンスで考えた方がいいように思う。 たとえば、Edited by Marinos Yeroulanos, A Dictionary of Classical Greek Qutations, I. B. Tauris, 2016 (P. 386, DEMOCRITUS 66)の訳を見ると

The world is a stage, life our passage, you come, you see, and you depart.

のように過去としては訳さず、「格言のアオリスト(gnomic aorist)」として一般的なことのように訳している。 ごく個人的な意見としては、このようにgnomicなアオリストの動作態として読む方が適しているように思える。 ここでの二人称/単数は、人を一般化して語りかけているように読むのではないだろうか。

ὁ κόσμος σκημήὁ βίος πάροδοςも、それぞれにἐστι(ν)を補って読む。 それらをまとめると、「κόσμοςσκηνή(であり)、βίοςπάροδος(である)。(人である)あなたは、(このσκηνήであるκόσμοςに)ἔρχομαιし、(このσκηνήであるκόσμοςで)ὁράωし、(このσκηνήであるκόσμοςから)ἀπέρχομαιする(ものである)」くらいの内容が文意。


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