練習 14.10

課題文

Ἀθηναῖος τις ἠρώτησέ ποτε τὸν Περικλέα,
“ὦ Περίκλεις,” ἔφη, “τί ἐστι τὸ πρῶτον ὃ τὸν ἄρχοντα δεῖ ἐν νῷ ἔχειν ;”
ὁ δὲ ἔφη, “ὅτι ἄνθρωπος ἐστι.”
“τί δ᾿ ἐστὶ τὸ δεύτερον ;”
“ὅτι καὶ δεῖ ἄρχειν καλῶς καὶ δικαίως.”
τέλος δ᾿ ὁ ἀνὴρ ἔλεγε, “τί ἐστι τὸ τρίτον ;”
καὶ Περικλῆς ἔφη, “ὅτι οὐκ ἀεὶ ἄρξει.”

語彙

文中の語 見出語形 品詞 変化形 主な意味
Ἀθηναῖος Ἀθηναῖος 男性名詞 単数/主格 アテーナイ人
τις τὶς 不定代名詞 男性/単数/主格 誰か
ἠρώτησε ἐρωτάω 動詞 三人称/単数/アオリスト/直説法/能動態 尋ねる
ποτε ποτέ 不定副詞 この語は変化しない かつて, いつか
τόν 定冠詞 男性/単数/対格 Περικλέαにかかる
Περικλέα Περικλῆς 男性名詞 単数/対格 ペリクレース(人名)
間投詞 この語は変化しない 呼格に先立つ
Περίκλεις Περικλῆς 男性名詞 単数/呼格 ペリクレース(人名)
ἔφη φημί 動詞 三人称/単数/未完了/直説法/能動態 言う
τί τίς 疑問代名詞 中性/単数/主格 何, なぜ
ἐστι εἰμί 動詞 三人称/単数/現在/直説法/能動態 ~である, 存在する
τό 定冠詞 中性/単数/主格 πρῶτονにかかる
πρῶτον πρῶτος 形容詞 中性/単数/主格 第一の
ὅς 関係代名詞 中性/単数/対格 ἔχεινの目的語
τόν 定冠詞 男性/単数/対格 ἄρχονταにかかる
ἄρχοντα ἄρχων 男性名詞 単数/対格 支配者, アルコーン
δεῖ δεῖ 動詞(非人称) 三人称/単数/現在/直説法/能動態 (不定詞)する必要がある
ἐν ἐν 前置詞 この語は変化しない (与格)の中に, で
νῷ νοῦς 男性名詞 単数/与格 心, 理性
ἔχειν ἔχω 動詞 不定詞/現在/能動態 持つ
定冠詞 男性/単数/主格 Πελικλῆςを指す
δέ δέ 小辞 この語は変化しない 前の文章から視点が変わる
ἔφη φημί 動詞 三人称/単数/未完了/直説法/能動態 言う
ὅτι ὅτι 接続詞 この語は変化しない ~ことを, ~故に
ἄνθρωπος ἄνθρωπος 男性名詞 単数/主格 人間
ἐστι εἰμί 動詞 三人称/単数/現在/直説法/能動態 ~である, 存在する
τί τίς 疑問代名詞 中性/単数/主格 何, なぜ
δέ δέ 小辞 この語は変化しない 前の質問から視点を変えている
ἐστί εἰμί 動詞 三人称/単数/現在/直説法/能動態 ~である, 存在する
τό 定冠詞 中性/単数/主格 δεύτερονにかかる
δεύτερον δεύτερος 形容詞 中性/単数/主格 第二の
ὅτι ὅτι 接続詞 この語は変化しない ~ことを, ~故に
καί καί 小辞 この語は変化しない ~も
δεῖ δεῖ 動詞(非人称) 三人称/単数/現在/直説法/能動態 (不定詞)する必要がある
ἄρχειν ἄρχω 動詞 不定詞/現在/能動態 支配する
καλῶς καλῶς 副詞 この語は変化しない よく, 美しく
καί καί 小辞 この語は変化しない そして
δικαίως δικαίως 副詞 この語は変化しない 正しく
τέλος τέλος 中性名詞 単数/対格(副詞として) 最後に
δέ δέ 小辞 この語は変化しない 前の質問から視点を変えている
定冠詞 男性/単数/主格 ἀνήρにかかる
ἀνήρ ἀνήρ 男性名詞 単数/主格
ἔλεγε λέγω 動詞 三人称/単数/未完了/直説法/能動態 言う
τί τίς 疑問代名詞 中性/単数/主格 何, なぜ
ἐστι εἰμί 動詞 三人称/単数/現在/直説法/能動態
τό 定冠詞 中性/単数/主格 τρίτονにかかる
τρίτον τρίτος 形容詞 中性/単数/主格 第三の
καί καί 小辞 この語は変化しない そして
Πελικλῆς Περικλῆς 男性名詞 単数/主格 ペリクレース(人名)
ἔφη φημί 動詞 三人称/単数/未完了/直説法/能動態 言う
ὅτι ὅτι 接続詞 この語は変化しない ~ことを, ~故に
οὐκ οὐ 否定辞 この語は変化しない ~ない
ἀεί ἀεί 副詞 この語は変化しない 常に
ἄρξει ἄρχω 動詞 三人称/単数/未来/直説法/能動態 支配する

脚注

第2文の頭にあるὁ δέは、主語が前文のそれ(Ἀθηναῖος τις)とは変わった(Πελικλῆς)ことを示す。

出典と翻訳

不明。

古典の出典を見つけることはできなかったが、Alston Hurd Chase & Henry Phillips, A New Introduction to Greek, P.39, READING 8.に同様の課題文がある。

メモ

ἠρώτησεἐρωτάωの変化形であると把握することが、本課題文の主旨と思われる。 とはいえ、この形では母音融合していない。 語頭の時量的加音をし、語幹末尾の短母音α時称接尾辞であるσが直後に来ることによってαからηに長音化(P.23, §38.2)している。 なので、語幹形成母音にも色をつけて(能動態/副時称の三人称/単数なので人称語尾はない)おくと、ρώτησεのように色分けできる。 見てきたように、母音融合は行われていない。

もしかしたら、非人称動詞δεῖの原形はδέωであるので、δέειδεῖのように母音融合している、を見極めるということが本課題文の主旨なのかもしれない。

最初の質問の内容を見ていくと主節は、「何(τί)が第一のもの(τό πρῶτον)である(ἐστί)のか?」と問いかけている。 関係代名詞のの先行詞はτὸ πρῶτονで、不定詞ἔχεινの目的語となっていると読む。 不定詞の主語はἄρχονταと読む。 δεῖδέωの三人称/単数/現在/直説法/能動態だが、ここでは不定詞を要求する非人称動詞。

これらをまとめると、「ἄρχωννοῦςの中に(ἐν)、ἔχωしなければならない(δεῖ)ところのもの()で第一のもの(τὸ πρῶτον)とは何(τί)である(ἐστί)か?」となる。 二番目の質問以降は、関係代名詞以降が以下同文として省略されている。

これらをまとめると、課題文は

ある時(ποτε)、Ἀθηναῖοςの誰か(τις)がΠερικλῆςἐρωτάωした。
「ねぇ、Περικλῆςさん」彼はφημίした、
ἄρχωννοῦςの中に(ἐν) ἔχωすべき(δεῖ)、第一のもの(τὸ πρῶτον)とは何(τί)でしょう。」
彼が()応えて(δέ) φημίした。
ἄνθρωποςである(ἐστι)ということ(ὅτι)です。」
「では(δέ)、二番目(τὸ δεύτερον)は何(τί)でしょう。」
καλῶςに、そして(καί)、δικαίωςἄρχωすることも(ὅτι καί)、でしょうか。」
最後に(τέλος)また(δέ)その男(ὁ ἀνήρ = Ἀθηναῖος τις)はλέγωした。
「三番目(τὸ τρίτον)って何(τί)ですか。」
すると(καί)、Περικλῆςφημίした。
ἀείἄρχωしていか(いこうとし)ないこと(ὅτι)ですね。」

くらいの内容が、本課題文の文意と思われる。

最後のοὐκ ἀεὶ ἄρξειは、少し解釈に幅があるように感じる。 一つ目は、ἀείを「いつまでも」に解し、ἄρξειの未来を意志未来と読んで、「いつまでも支配しようとしない(アルコーンの役職に執着しない)」と読む。 もう一つは、ἀείを「どんなときも」くらいに解し、「いちいち(細かいことまで口出しして)支配しようとはしない」と読む。 どちらが適切なのかは、恐らくはΠερικλῆςの人となりに関する伝承次第なのだが、不勉強のために私はどちらが適切なのかを判断できない。


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