練習 15.10
課題文
στρατιῶται τινες οἳ ἐνίκησαν τοὺς πολεμίους σαλπιγκτὴν ἔλαβον.
ἐπεὶ δὲ ἔμμελον ἀποκτείνειν αὐτὸν,
“ ὦ ἄνδρες,” ἔφη,
“ μὴ ἀποκτείνητέ με.
ἐγὼ γὰρ οὐδένα ὑμῶν ἀπέκτεινα.
ὁρᾶτε ὅτε οὐδὲν ὅπλον ἔχω, πλὴν ταύτης τῆς σάλπιγγος.”
οἱ δὲ πρὸς αὐτὸν ἔφασαν,
“ διὰ αὐτὸ τοῦτο δίκαιος εἶ ἀπθανεῖν, ὅτι σὺ μὲν αὐτὸς οὐ πολεμεῖς, τοὺς ἄλλους εἰσ μάχην ἐγείρες.”
語彙
文中の語 | 見出語形 | 品詞 | 変化形 | 主な意味 |
στρατιῶται | στρατιώτης | 男性名詞 | 複数/主格 | 兵士 |
τινες | τὶς | 不定代名詞 | 男性/複数/主格 | 誰か |
οἵ | ὅς | 関係代名詞 | 男性/複数/主格 | ~であるところの人 |
ἐνίκησαν | νικάω | 動詞 | 三人称/複数/アオリスト/直説法/能動態 | 勝利する |
τούς | ὁ | 定冠詞 | 男性/複数/対格 | πολεμίουςにかかる |
πολεμίους | πολέμιος | 男性名詞 | 複数/対格 | 敵 |
σαλπιγκτήν | σαλπιγκτής | 男性名詞 | 単数/対格 | ラッパ手 |
ἔλαβον | λαμβάνω | 動詞 | 三人称/複数/アオリスト/直説法/能動態 | つかむ, 捕える |
ἐπεί | ἐπεί | 接続詞 | この語は変化しない | ~のときに, ~だから |
δέ | δέ | 小辞 | この語は変化しない | 文の視点が変わっている |
ἔμελλον | μέλλω | 動詞 | 三人称/複数/未完了/直説法/能動態 | まさに(不定詞)しようとする |
ἀποκτείνειν | ἀποκτείνω | 動詞 | 不定詞/現在/能動態 | 殺す |
αὐτόν | αὐτός | 強意代名詞 | 男性/単数/対格 | 指示代名詞としてσαλπιγκτήςを指す |
ὦ | ὦ | 間投詞 | この語は変化しない | 呼格に先立つ |
ἄνδρες | ἀνήρ | 男性名詞 | 複数/呼格 | 男, 人 |
ἔφη | φημί | 動詞 | 三人称/単数/未完了/直説法/能動態 | 言う |
μή | μή | 否定辞 | この語は変化しない | ~ない |
ἀποκτείνητε | ἀποκτείνω | 動詞 | 二人称/複数/アオリスト/接続法/能動態 | 殺す |
με | ἐγώ | 人称代名詞 | 男性/単数/対格 | 私 |
ἐγώ | ἐγώ | 人称代名詞 | 男性/単数/主格 | 私 |
γάρ | γάρ | 小辞 | この語は変化しない | 理由を表す |
οὐδένα | οὐδείς | 形容詞 | 男性/単数/対格 | 誰も~ない |
ὑμῶν | σύ | 人称代名詞 | 男性/複数/属格 | あなた |
ἀπέκτεινα | ἀποκτείνω | 動詞 | 一人称/単数/アオリスト/直説法/能動態 | 殺す |
ὁρᾶτε | ὁράω | 動詞 | 二人称/複数/現在/直説法/能動態 | 見る |
ὅτι | ὅτι | 接続詞 | この語は変化しない | ~ことを, ~故に |
οὐδέν | οὐδείς | 形容詞 | 中性/単数/対格 | 何も~ない |
ὅπλον | ὅπλον | 中性名詞 | 中性/単数/対格 | (通常は複数で)武器 |
ἔχω | ἔχω | 動詞 | 一人称/単数/現在/直説法/能動態 | 持つ |
πλήν | πλήν | 前置詞 | この語は変化しない | (属格を)除いて, 以外に |
ταύτης | οὗτος | 指示代名詞 | 女性/単数/属格 | それ, その |
τῆς | ὁ | 定冠詞 | 女性/単数/属格 | σάλπιγγοςにかかる |
σάλπιγγος | σάλπιγξ | 女性名詞 | 単数/属格 | ラッパ |
οἱ | ὁ | 定冠詞 | 男性/複数/主格 | 指示代名詞的にστρατιῶται τινεςを表す |
δέ | δέ | 小辞 | この語は変化しない | 文の視点が変わったことを表す |
πρός | πρός | 前置詞 | この語は変化しない | (対格の)方へ, 向って |
αὐτόν | αὐτός | 強意代名詞 | 男性/単数/対格 | 指示代名詞としてσαλπιγκτήςを指す |
ἔφασαν | φημί | 動詞 | 三人称/複数/未完了/直説法/能動態 | 言う |
διά | διά | 前置詞 | この語は変化しない | (対格の)故に |
τοῦτο | οὗτος | 指示代名詞 | 中性/単数/対格 | それ, その |
δίκαιος | δίκαιος | 形容詞 | 男性/単数/主格 | 正しい, 理にかなっている |
εἶ | εἰμί | 動詞 | 二人称/単数/現在/直説法/能動態 | ~である, 存在する |
ἀποθανεῖν | ἀποθνήσκω | 動詞 | 不定詞/アオリスト/能動態 | 殺す |
ὅτι | ὅτι | 接続詞 | この語は変化しない | ~ことを, ~故に |
σύ | σύ | 人称代名詞 | 男性/単数/主格 | あなた |
μέν | μέν | 小辞 | この語は変化しない | (δέと組で)一方では |
αὐτός | αὐτός | 強意代名詞 | 男性/単数/主格 | 自身 |
οὐ | οὐ | 否定辞 | この語は変化しない | ~ない |
πολεμεῖς | πολμέω | 動詞 | 二人称/単数/現在/直説法/能動態 | 戦争をする |
τούς | ὁ | 定冠詞 | 男性/複数/対格 | ἄλλουςにかかる |
δέ | δέ | 小辞 | この語は変化しない | (μένと組で)他方では |
ἄλλους | ἄλλος | 形容詞 | 男性/複数/対格 | 他の |
εἰς | εἰς | 前置詞 | この語は変化しない | (対格の)中へ |
μάχην | μάχη | 女性名詞 | 単数/対格 | 戦い, 合戦 |
ἐγείρεις | ἐγείρω | 動詞 | 二人称/単数/現在/直説法/能動態 | 目をさまさせる, 鼓舞する |
脚注
- ἀποκετείνητε ; ἀποκτείνω「殺す」の二人称/複数/アオリスト/接続法/能動態形。
- (接続法が)μήとともに用いられて否定命令=禁止(P. 87, §114.3)。
- οὐδένα 「誰をも…ない」(P. 145, §192)。
出典と翻訳
『イソップ寓話集』, Chambry版325話
課題文の出典としてChambry版325話と書いてあるが、Chambry版のテキストとは一致しない。
325. Σαλπιγκτής.
Σαλπιγκτὴς στρατὸν ἐπισυνάγων καὶ κρατηθεὶς ὑπὸ τῶν πολεμίων ἐβόα·
“ Μὴ κτείνετέ με, ὦ ἄνδρες, εἰκῆ καὶ μάτην· οὐδένα γὰρ ὑμῶν ἀπέκτεινα· πλὴν γὰρ τοῦ χαλκοῦ τούτου οὐδὲν ἄλλο κτῶμαι. ”
Οἱ δὲ πρὸς αὐτὸν ἔφασαν·
“ Διὰ τοῦτο γὰρ μᾶλλον τεθνήξῃ, ὅτι σὺ μὴ δυνάμενος πολεμεῖν τοὺς πάντας πρὸς μάχην ἐγείρεις. ”
Ὁ μῦθος δηλοῖ ὅτι πλέον πταίουσιν οἱ τοὺς κακοὺς καὶ βαρεῖς δυνάστας ἐπεγείροντες εἰς τὸ κακοποιεῖν.
325
喇叭卒が軍隊を呼び集めているところを敵軍に捕えられたとき「みなさん、どうか、むやみやたらに私を殺さないで下さい、私はあなた方の誰も殺しはしなかったのですから、というのはこの銅より外には何も持っていないのですから。」と叫びました。 すると彼らは喇叭卒に「お前は戦うことはできないが、すべての人をふるいたたせて戦さをさせるんだから、そのためにいっそう殺すんだ。」と言いました。
この物語は、悪い
(山本光雄 訳)
課題文でいくつかの改変を行っているのがわかる。 一つは、元のテキストでは本文の最初の部分で分詞(P. 79, 第21課)を使っている。 分詞のひとつはアオリスト分詞で、しかも受動態(P. 99, 第25課)となっている。 行為者であるὑπό+属格(P. 118, 第30課)も見える。 これらは本課学習時点では未学習であるため、改変してあるのだと思われる。
他に、στρατιώτηςたちのセリフで、元のテキストでは副詞μᾶλλονを使っているが、課題文では強意代名詞αὐτόを使って「それ(=σάλπιγξ)」のせいで、と強調している。
また、課題文でσάρπιγξ(ラッパ)としているのは、元々χαλκός(銅または青銅や真鍮などの銅合金)であることがわかる。 これは、意味が通りやすくするためであると思われる。 だが、岩波文庫の新訳である中務訳(第4部)の、バブリオス起源の寓話370話などでは、これを「喇叭」としている(P. 274)。 ただ、これがどんなテキストから訳出しているのかは、フリーで参照できるテキストでは見つからなかった(2024年3月現在)。
ちなみにChambry版と並んでよく参照されるHalm版, 386話では文頭で大文字にするかどうかの違い以外で、Chambry版との大きな違いを見つけられなかった。
メモ
文中にいくつも出て来る人称代名詞の形と意味を把握することが本課題文の主旨と思われる。 ギリシア語の動詞には人称の情報も入っているので、σαλπιγκτήςのセリフに“ ἐγὼ γὰρ οὐδένα ὑμῶν ἀπέκτεινα.のように主語として人称代名詞ἐγώが入っている表現は、少ない。 こういう場合は、「この私は」くらいに強調する意味合いがあると思われる。
脚注にもあるように、ἀποκτείνητεはἀποκτείνωの接続法/アオリスト。 否定辞μήをとって、否定命令=禁止をしている。 ここでは「命令」というよりは「命乞い」であるとしても。
σαλπιγκτήςのセリフにあるὁρᾶτεは、普通に考えると、ὁράετε > ὁρᾶτεと母音融合した直説法/現在。 しかしツールによっては叙事詩形として、二人称/複数/現在/命令法/能動態という結果を返してくることがある。 命令法を学ぶのはP. 132, 第33課以降なので、ここで脚注もなしに出て来る事は考えづらいが、「見てください、そのラッパ以外に武器なんて持っていないのですよ」と主張したとしても、文脈上はおかしくないのかもしれない。
まとめると
ある(τινες) στρατιώτηςたちがπολέμιοςたちにνικάωしてσαλπιγκτήςをλαμβάνωした。
彼らが彼(αὐτόν = σαλπιγκτήν)をἀποκτείνωしようとした(μέλλω)とき(ἐπεί)、
「ああ、みなさん(ὦ ἄνδρες)」彼はφημίした、「ἐγώをἀποκτείνωするようなことはしないでください(μή+接続法)、なぜなら(γάρ)、この私が(ἐγώを明示) σάλπιγξを除いて(πλήν)どんなὅπλονもἔχωしていない(οὐδένα)ことは、みなさんもὁράωしています。」
すると(δέ)彼ら(οἱ = στρατιῶταί τινες)は彼に(αὐτόν = σαλπιγκτήν)向って(πρός) φημίした。
「それ自身(αὐτό τοῦτο)ゆえに(διά)お前はἀποκτείνωすることがδίκαιοςである(εἶ)のさ。
つまり(ὅτι)、おまえ自身(σὺ αὐτός)はπολεμέωしない(οὐ)一方で(μέν)、他方では(δέ) 他の者たちを(τοὺς ἄλλους) μάχηの中へと(εἰς) ἐρείρωしているのだからな。」
くらいの内容が、本課題文の文意と思われる。