§10.
§10. アクセント決定における語末の -οι および -αι
アクセントの位置を決定する際に、語末の -οι および -αι は「短い」音節とみなされる。 ただし、これには例外がある。
- 副詞 οἴκοι (家で)。
家を表す名詞は οἶκος であり、このことから類推して、この副詞の語尾である -οι が「短い」音節であるならば οἶκοι であってもよさそうなのに、実際には「長い」音節と評価されてpaenultimaに曲アクセントが立つことができない(paenultimaに曲アクセントがとれるのはulutimaが短い音節のときのみ, 水谷 P.7のアクセント位置の表参照)ので οἴκοι になっている。 - 田中/松平§27.では、他に希求法の語尾として現れる場合を挙げている (Smyth §169の議論も参照のこと)。
Smythでは λύσαι(λύω の三人称/単数/アオリスト/希求法/能動態)や βουλεύοι(βουλεύω の三人称/単数/アオリスト/希求法/能動態)を挙げている。
これらは語末が原則通り「短い」と評価されるならばアクセント位置はアクセント規則内で語末から離れようとするので、それぞれ λῦσαι、βούλευοι のようになるハズである。
韻文で音節の長短を評価するときは、語末の -οι および -αι は韻律の要求にしたがって、長短どちらにも評価されうる。 たとえば、ヘーシオドス, 『神統記』, 436行
ἔνθα θεὰ καὶ τοῖς παραγίγνεται ἠδ᾿ ὀνίνησιν·
であるが、この作品はヘクサメトロスで書かれているので、音節の長短をカッコ内に、脚の区切りを "|" で表すと
ἔν(‒)θᾰ(⏑) θε(⏑)|ὰ(‒) καὶ(‒)| τοῖ(‒)ς πᾰ(⏑)ρᾰ(⏑)|γίγ(‒)νε(⏑)ται(⏑)| ἠ(‒)δ᾿ ὀ(⏑)νί(⏑)|νη(‒)σιν(⏑)|
のように区切ることができるが、καίの語尾の-αιは長く、παραγίγνεταιの語尾の-αιは短く読まないと韻律に合わない。