練習 3.8

課題文

τὰ ἐν τῇ νήσῳ δένδρα ἐστὶ καλά.

語彙

文中の語 見出語形 品詞 変化形 主な意味
τὰ 定冠詞 中性/複数/主格 δένδραにかかる
ἐν ἐν 前置詞(与格支配) この語は変化しない ~の中に
τῇ 定冠詞 女性/単数/与格 νήσῳにかかる
νήσῳ νῆσος 女性名詞 単数/与格
δένδρα δένδρον 名詞 中性/複数/主格
ἐστὶ εἰμί 動詞 三人称/単数/現在/直説法/能動態 ~である
καλά καλός 形容詞 中性/複数/主格 美しい, 見事な

脚注

中性/複数の主語は単数の動詞で受けるのが普通。

出典と翻訳

不明

メモ

基本的な構造は、δένδρον(複数)はκαλόςである、というもの。 ἐν τῇ νήσῳは、そのδένδρονがどんな場所にあったのかを説明している。 つまり、「νῆσοςの中におけるδένδρον(複数)はκαλόςである」、というのが文意。

脚注にあった中性/複数を単数の動詞で受けることに対する説明は、高津の文法書に書いてあったので、引用しておく。

高津春繁, 『ギリシア語文法』, P.381-382

N1.

但し、アッティカ方言では稀であるが、他の方言では中性複数に複数動詞が用いられることが珍しくない。

καὶ δὴ δοῦρα σέσηπε μεῶν καὶ σπάρτα λέλυνται.
イーリアス, II. 135.
船板は腐敗し、綱はゆるんでいる (σέσπησε sg.に対してλέλυνται pl.)

(引用者注) : 中性名詞δόρυの複数形であるδοῦραに対してσέσηπε(σήπωの三人称/単数/現在完了/直説法/能動態)と単数で受けているのに対して、同じく中性名詞σπάρτονの複数形であるσπάρταに対しては(λύωの三人称/複数/現在完了/直説法/中受動態)と複数で受けている。

N2.

この用法は印欧語族の古い時代に、中世複数形が女性の-ᾰに終わる集合名詞から造られたためであって、中性複数は本来複数というよりは、物の集合を一つにまとめて考えたから、動詞は単数であった。 しかし、既に古くからこの集合名詞中に個々の物を認める感じが現れ、これがアッティカ以外の方言で強く現れた。 したがって、中性複数中の個々の物を見た場合や、中性複数が実際には中性でないものを表している時には、アッティカ方言でも複数を取ることがある。

τὰ ἅρματα ἐφέροντο τὰ μὲν δι᾿ αὐτων τῶν πολεμίων, τὰ δὲ καὶ δια τῶν Ἑλλήνων.
クセノポーン, 『アナバシス』, 1. 8. 20
戦車は突進した、一部は敵軍を、一部はギリシア軍の中を通って。

(引用者注) : ἅρματαは戦車を意味する中性名詞。 その一部が敵軍を、別の一部はギリシア軍の中を通って行ったとあるように、個々の動きに着目しているために動詞を複数で受けている例。

クセノポーンはソークラテースと同時代のアテーナイ人。 従って、基本的にはアッティカ方言話者。

τὰ τέλη (= οἱ ἐν τέλει) τῶν Λακεδαιμονίων ὑπέσχετο αὐτοῖς.
トゥーキューディデース, 『戦史』, 1.58.1
ラケダイモーンの当局者たちは、彼らに約束した。

(引用者注) : τέληと複数形で表されている中性名詞τέλοςにはmagistracy(行政官,またはその事務所)という意味がある。 高津はカッコ内でその事務所にいる人々、と解している。 ここでは中性名詞で表されているものの、実際には人間であるために動詞を複数で受けている例。

トゥーキューディデースは『戦史』の冒頭で自分のことを「アテーナイの人トゥーキューディデース」と書いているので、アッティカ方言話者。


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