練習 3.9
課題文
ὁ οἶνος δρόσος τῆς ἀμπέλου ἐστίν.
語彙
文中の語 | 見出語形 | 品詞 | 変化形 | 主な意味 |
ὁ | ὁ | 定冠詞 | 男性/単数/主格 | οἶνοςにかかる |
οἶνος | οἶνος | 男性名詞 | 単数/主格 | 酒(葡萄酒) |
δρόσος | δρόσος | 女性名詞 | 単数/主格 | 露 |
τῆς | ὁ | 定冠詞 | 女性/単数/属格 | ἀμπέλουにかかる |
ἀμπέλου | ἄμπελος | 女性名詞 | 単数/属格 | ぶどうの樹 |
ἐστίν | εἰμί | 動詞 | 三人称/単数/現在/直説法/能動態 | ~である |
脚注
ἐστίνの語末のνは ν-mobable(付加音のν) と呼ばれ、母音で始まる語の前や、句または文の終わりでつけられることが多い。
出典と翻訳
不明。
メモ
定冠詞のついている方の名詞を主語と読む(練習3.2の注参照)。 δρόσοςは女性名詞(単語欄を見ると定冠詞がἡ)なので、定冠詞ὁは男性名詞であるοἶνοςにかかることがわかる。 なのでοἶνοςはδρόσοςである、が基本的な構文。 「ἄμπελοςの(単数/属格)」がどちらにかかるかというと、δρόσοςにかかるので、あとは訳語をあてはめていけば。
τῆς ἄμπελουをὁ οἶνοςにかかるように読むとすると属格を材料・内容の属格(チエシュコ, P. 305)に読んで、ぶどうの樹(からできた)の酒は露である、となかなかに酒豪な主張になるが、当時のギリシア人たちは葡萄酒を水で割って飲んでおり、水で割らずに
どんな比率で割るのがよいかは、諸説ある。 アリストパネースの喜劇『騎士』では、4(酒):6(水)がスタンダードであるものの、ゴマすりの相手である民衆を擬人化したデーモスの旦那は「こすっからい」ので3(酒):7(水)の方がいいに決まっている、というやりとりがある。 ヘーシオドスの『仕事と日』(595行目付近)では、柄杓に3杯分の水を注いだのち、4杯目は酒を混酒器に注げ、と書いてある。 他にもプルータルコスの『モラリア』の中にある「食卓歓談集」(657 B-657 E)やアテーナイオスの『食卓の賢人たち』(第10巻, 426 B-427 B)にも酒を割る比率についての議論があり、当時のギリシア人にとっては大きな関心事の一つだったことがうかがえる。
ちなみに、プルータルコスもアテーナイオスも同じ作者不詳喜劇断片である
五度と三度は飲め、四度は飲むな
を引用しており、五度とは酒2に対して水3(前述の4:6)、三度とは酒1に対して水2(前述の3:7)、四度とは酒1に対して水3(前述のヘーシオドスの割り方)の比率を、音程の用語になぞらえて表現したもの。
そんなこともあり、あまり悪酔いしそうな解釈はしない方がよいように思う。