練習 8.3
課題文
οὐκ ἔστιν ἐν πολέμοῳ δὶς ἁμαρτάνειν.
語彙
文中の語 | 見出語形 | 品詞 | 変化形 | 主な意味 |
οὐκ | οὐ | 否定辞 | この語は変化しない | ~ない |
ἔστιν | εἰμί | 動詞 | 三人称/単数/現在/直説法/能動態 | 存在する, ある |
ἐν | ἐν | 前置詞 | この語は変化しない | (与格の)中に |
πολέμῳ | πόλεμος | 男性名詞 | 単数/与格 | 戦争 |
δίς | δίς | 数副詞 | この語は変化しない | 2度 |
ἁμαρτάνειν | ἁμαρτάνω | 動詞 | 不定詞/現在/能動態 | 過ちを犯す |
脚注
特になし。
出典と翻訳
Πλούταρχος, 『王と将軍たちの名言集』186f, Λαμάχουの項目
Λαμάχου
Λάμαχος ἐπετίμα τινὶ τῶν λοχαγῶν ἁμαρτόντι· τοῦ δὲ φήσαντος μηκέτι τοῦτο ποιήσειν, ‘οὐκ ἔστιν,’ εἶπεν, ‘ἐν πολέμῳ δὶς ἁμαρτεῖν. ’
ラマコス
ラマコスは隊長の一人が過ちを犯したのを叱責すると、その男が「二度と過ちをしない」と言ったので、彼は「戦いでは二度過ちを犯す余地はないのだぞ」と言った。
(松本仁助 訳)
叱責された人が、どのようなミスを犯したのか、はプルータルコスの本文にも書いていない。
メモ
ἔστινがεἰμίの三人称/単数/現在/直説法/能動態である(P. 33, §54)ことを把握することが、本課題文の主旨と思われる。
変化表でἐστίとなっているものがἔστιのようにアクセントの位置を変えている。 これはSmyth, §187.bによれば
b. ἐστί is written ἔστι at the beginning of a sentence ; when it express existance or possibility ; when it follows οὐκ, μή, εἰ, ὡς, καί, ἀλλά (or ἀλλ᾿), τοῦτο (or τοῦτ᾿) ; and in ἔστιν οἵ some, ἕστιν ὅτε sometimes. Thus εἰ ἕστιν οὕτως if it is so, τοῦτο ὃ ἔστι that which exists.
存在や可能性を表現するとき、ἐστίは文頭に置かれてἔστιのように書かれる。 これはοὐκやμή、εἰ、ὡς、καί、ἀλλά(もしくはἀλλ᾿)、τοῦτο(もしくはτοῦτ᾿)に続くこともある。 また、ἔστιν οἵは「ある, いくつかの」を、ἔστιν ὅτεは「ときどき」を表す。 そうして、εἰ ἔστιν οὔτωςは「もしそうならば」、τοῦτο ὃ ἔστιは「そうあるもの」くらいの意味を表す。
のように書かれている。
訳文は出典と翻訳の項で見た通りだが、日本語としてきれいすぎる感もある。 語順を意識して読むと、「(そんなことは)ありえない/あってはならない(οὐκ ἔστιν)のだ(そう彼は言うと言葉を続けた)、πόλεμοςの中(ἐν)において二度(δίς)もἁρματάνωするなどということは」、という感じになると思われる。
ギリシア語は語順の自由度が比較的高い言葉なので、逆に語順で何を強調したいのかを想像しながら読むのも、原語で読む愉しみの一つではないかと思う。