練習 12.4
課題文
ἀνεῖλεν αὐτῷ ὁ Ἀπόλλων θεοῖς οἷς ἔδει θύειν.
語彙
文中の語 | 見出語形 | 品詞 | 変化形 | 主な意味 |
ἀνεῖλεν | ἀναιρέω | 動詞 | 三人称/単数/アオリスト/直説法/能動態 | 神託を下す, 答える |
αὐτῷ | αὐτός | 強意代名詞 | 男性/単数/与格 | (その人/物)自身 |
ὁ | ὁ | 定冠詞 | 男性/単数/主格 | Ἀπόλλωνにかかる |
Ἀπόλλων | Ἀπόλλων | 男性名詞 | 単数/主格 | アポローン神 |
θεοῖς | θεός | 男性名詞 | 複数/与格 | 神 |
οἷς | ὅς | 関係代名詞 | 男性/複数/与格 | ~するところの人(物) |
ἔδει | δεῖ | 非人称動詞 | 未完了/直説法/能動態 | (不定詞)する必要がある |
θύειν | θύω | 動詞 | 不定詞/現在/能動態 | 犠牲を捧げる |
脚注
ἀνεῖλεν, ἀναιρέω「神託を下す, 答える」の三人称/単数/第二アオリスト/直説法/能動態。
出典と翻訳
クセノポーン, アナバシス, 3.1.6
ἐλθὼν δ᾽ ὁ Ξενοφῶν ἐπήρετο τὸν Ἀπόλλω τίνι ἂν θεῶν θύων καὶ εὐχόμενος κάλλιστα καὶ ἄριστα ἔλθοι τὴν ὁδὸν ἣν ἐπινοεῖ καὶ καλῶς πράξας σωθείη. καὶ ἀνεῖλεν αὐτῷ ὁ Ἀπόλλων θεοῖς οἷς ἔδει θύειν.
そこでクセノポンはデルポイへ出向き、どの神に供犠し祈願すれば、最も都合よく自分の志す旅に出立でき、上首尾で無事帰国できるかをアポロンに訊ねた。
アポロンは供犠すべき神々の名を答えてくれたので、クセノポンは帰国してその託宣をソクラテスに話した。
(松平千秋 訳)
松平訳ではPERSEUSでは3.1.7に置かれている
ἐπεὶ δὲ πάλιν ἦλθε, λέγει τὴν μαντείαν τῷ Σωκράτει.
までを3.1.6の範囲としている。
メモ
強意代名詞αὐτόςの使い方を学ぶことが、この課題文の要旨と思われる。 αὐτῷは単数なので、課題文だけでなく文脈も読み込むならばΞενοφῶνを指している。 課題文の部分のみでも、神々はθεοῖςと複数で扱われているし、その関係代名詞もοἷςと複数なので、αὐτῷが神を指すと考えることは適切ではない。 強意代名詞として「同じ人」または「まさにその人」と読んでもよいのだろうが、斜格用法(P. 48, §. 67. 3)として「彼(その人)に」くらいに読んでおいた方が肩ひじ張らなくてよいように思う。
動詞ἀναιρέωが注記に載っているのは、母音または複母音が連続したときに「母音融合または約音(contraction)」と呼ばれる現象がおきるが、それはもっと後で見る第14課「母音融合動詞」の融合規則(P. 54, §. 77)でみるから、と思われる。 ἀναιρέωを辞書で引いてみると訳語に"take up"があるので、この語は上方への動きを感じさせるἀνάと、つかみ取るという意味のαἱρέωの合成語である、と考えられる。 αἱρέωのアオリスト幹であるἑλに、加音 ἐがついたανέελεvが母音融合(ε+ε=ει)してανεῖλεvとなっているように見える。
関係代名詞οἷςは、関係節の中で不定詞θύεινの間接目的語となっている。 逆に、主節において複数/与格で表されているθεοῖςは本来ἀνεῖλενの直接目的語であるハズなので、θεούςのように対格であるべきであると思われる。 つまり先行詞であるθεούςが逆の同化(P. 45-46, §. 65. 2)をとってθεοῖςとなっていると思われる。
まとめると、「Ἀπόλλωνはθύωすべきであるところのθεόςたちをαὐτόςにἀναιρέωした」くらいの内容が文意であると思われる。