練習 14.4

課題文

οὐ γὰρ δοκεῖν ἄριστος ἀλλ᾿ εἶναι θέλει.

語彙

文中の語 見出語形 品詞 変化形 主な意味
οὐ οὐ 否定辞 この語は変化しない ~ない
γάρ γάρ 小辞 この語は変化しない 理由を表す
δοκεῖν δοκέω 動詞 不定詞/現在/能動態 ~であると思われる
ἄριστος ἄριστος 形容詞 男性/単数/主格 最もよい
ἀλλ᾿ ἀλλά 小辞 この語は変化しない しかし
εἶναι εἰμί 動詞 不定詞/現在/能動態 ~である, 存在する
θέλει ἐθέλω 動詞 三人称/単数/現在/直説法/能動態 欲する

脚注

特になし。

出典と翻訳

アイスキューロス, 『テーバイを攻める七将』, 592行目

Ἄγγελος

ἕκτον λέγοιμ᾽ ἂν ἄνδρα σωφρονέστατον,
ἀλκήν τ᾽ ἄριστον μάντιν, Ἀμφιάρεω βίαν·
570Ὁμολωίσιν δὲ πρὸς πύλαις τεταγμένος
κακοῖσι βάζει πολλὰ Τυδέως βίαν·
τὸν ἀνδροφόντην, τὸν πόλεως ταράκτορα,
μέγιστον Ἄργει τῶν κακῶν διδάσκαλον,
Ἐρινύος κλητῆρα, πρόσπολον φόνου,
575κακῶν τ᾽ Ἀδράστῳ τῶνδε βουλευτήριον.
καὶ τὸν σὸν αὖθις προσθροῶν ὁμόσπορον,
ἐξυπτιάζων ὄμμα, Πολυνείκους βίαν,
δίς τ᾽ ἐν τελευτῇ τοὔνομ᾽ ἐνδατούμενος,
καλεῖ. λέγει δὲ τοῦτ᾽ ἔπος διὰ στόμα·
580‘ἦ τοῖον ἔργον καὶ θεοῖσι προσφιλές,
καλόν τ᾽ ἀκοῦσαι καὶ λέγειν μεθυστέροις,
πόλιν πατρῴαν καὶ θεοὺς τοὺς ἐγγενεῖς
πορθεῖν, στράτευμ᾽ ἐπακτὸν ἐμβεβληκότα;
μητρός τε πηγὴν τίς κατασβέσει δίκη;
585πατρίς τε γαῖα σῆς ὑπὸ σπουδῆς δορὶ
ἁλοῦσα πῶς σοι ξύμμαχος γενήσεται;
ἔγωγε μὲν δὴ τήνδε πιανῶ χθόνα,
μάντις κεκευθὼς πολεμίας ὑπὸ χθονός.
μαχώμεθ᾽, οὐκ ἄτιμον ἐλπίζω μόρον.’
590τοιαῦθ᾽ ὁ μάντις ἀσπίδ᾽ εὐκήλως ἔχων
πάγχαλκον ηὔδα: σῆμα δ᾽ οὐκ ἐπῆν κύκλῳ.
οὐ γὰρ δοκεῖν ἄριστος, ἀλλ᾽ εἶναι θέλει,
βαθεῖαν ἄλοκα διὰ φρενὸς καρπούμενος,
ἐξ ἧς τὰ κεδνὰ βλαστάνει βουλεύματα.
595τούτῳ σοφούς τε κἀγαθοὺς ἀντηρέτας
πέμπειν ἐπαινῶ. δεινὸς ὃς θεοὺς σέβει.

使者
第六番目の人として、思慮の正しい丈夫ますらおで、また卓越した剛の者、
予言者で力の強いアムピアラオスについて申し上げましょう。
ホモロイデスの城門に配置せられて居りますが、570
力の強いテュデウスを散々にあしざまに言うのでございます。
即わち、人殺し、国を乱す男とか、アルゴスの悪業仕込みの巨匠とか、
エリュニスの呼び出し係り、血を流す神ポノスの神主とか
アドラストスにこの不幸を勧告した奴だとかと申します575
次に弟御さまを見返って、
力の強いポリュネイケスに、御名を巻子かんすひろげ読みにして、
つまり、御名を二つに区切ってしかも後半を二度くり返して、呼びかけます。
さて、口をついて出る言葉とは、
「まことにこんな行いは、神々の御意にかなうであろうか。580
また後の世の人々にとって、聞くも語るもたのしいことであろうか、
おん身の父祖の国や民族の神々を
異国の軍に下知しながら、うち滅すということなどが。
母なる泉を涸らすことが、一体どんな正義だというのか。
また父なる国土がおん身の競争心の鉾先に亡ぼされては585
誰がおん身の味方となろうか。
私はといえば、この土地の肥やしとなろう。
敵方の地に埋められた予言者だ。
さあ、戦わんかな、誉れのない運命など、わたしは望まない。」
と、青銅作りのその楯をやおら静かに執り持って、590
こう予言者は言い終えました。楯の円い表には何の紋章もございません。
それと申しますのも、最高というものを見せかけにせず、あるがままを望み
心の深い鋤き跡のゆたかな稔りを収めていますので、
その心には秀いでた思いはかりが萌え出ているからでございます。
この者に対しましては、賢くて勇ましい相手をお遣わしになりますように595
お勧めいたします。神々を敬う者は怖るべきでございます。
(今道友信 訳)

メモ

不定詞δοκεῖνが母音融合動詞であり、この形を正しく判断できることが、本課題文の主旨と思われる。 いま語幹語幹形成母音不定詞語尾融合した語尾に色分けすると

  1. δοκέεεν
  2. δοκέειν
  3. δοκεῖν

のように融合して来たことがわかればよい。

動詞δοκέωの主語は「思われる対象」であることに注意。 「思う主体」は与格で示される。 ここでは与格が示されていないので、思う主体はその場にいた人々なのだろう。

οὐ A ἀλλὰ Bは「AではなくてB」の意(練習4.8脚注参照)。 つまり「彼はδοκεῖν ἄριστοςではなくてεἶναι ἄριστοςであることをἐθέλωしている」くらいの内容。

使者は見てきたことを述べており、アムピアラーオスの状態は報告時点よりも過去にあるのだから、動詞は過去を表す未完了や直説法/アオリストでもよさそうなのだが、現在で述べられている。 これを過去の事象を活き活きと描写するための「歴史的現在(historic present)」という表現方法と解釈することもできるかもしれない。 しかしこの行は、前の行で述べられたアムピアラーオスの描写から、彼の人となりを使者が解釈している内容と思われるので、使者が述べている時点でもアムピアラーオスがそのような状態であることを示しているのだろうと思われる。

小辞γάρは前の行で「楯に何の紋章もない」ことに対する理由を述べていると思われる。 これはもちろん、彼が楯に装飾を施していないことを使者が評してのこと。 それでも例えば(偽)アポロドーロスの3.6.1に語られているような、ポリュネイケースが追放されたときの楯に猪かライオンの顔が描かれていた、という内容が念頭にあるのかもしれない。

エテオクレースポリュネイケースは王権に関して互いに協定し、二人が一年おきに交互に治めることに決めた。 一説には先ずポリュネイケースが治め、一年後にエテオクレースに王権を渡したというが、一説には先ずエテオクレースが治めたが、後王権を渡そうとしなかったのだという。 ポリュネイケースはそこでテーバイより追放せられて、頸飾りと長衣ペプロスとを携えてアルゴスに来た。 アルゴスの王はタラオスの子アドラストスであった。 ポリュネイケースは彼の王宮に夜中に近づき、カリュドーンより遁れて来たオイネウスの子テューデウスと闘い始めた。 突然起った叫び声にアドラストスが現れて、彼らを引き分け、ある予言者が娘たちを猪と獅子にめあわすべしと彼に言ったのを思い出して、両人をむことした。 というのは楯の上に、一人は猪の、一人は獅子の顔をつけていたからである。 デーイピュレーテューデウスが、アルゲイアーポリュネイケースが娶り、アドラストスは両人にその国を戻してやると約束した。 そして先ずテーバイに軍を進めるべく急ぎ、主だった人々を招集した。
(高津春繁 訳)

これらをまとめると、「(アムピアラーオスの持つ楯に何の紋章もないのは=γάρ) ἄριστος (=ἀγαθόςの最上級)であると見られること(δοκεῖν)ではなくて(οὐ)、むしろ(ἀλλά) (ἄριστος)である(εἶναι)ことを彼がἐθέλωしている」くらいの内容が本課題文の文意であると思われる。


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