練習 14.7

課題文

ζῆν οὐκ ἄξιος, ὅτῳ μηδὲ εἷς ἐστι χρηστὸς φίλος.

語彙

文中の語 見出語形 品詞 変化形 主な意味
ζῆν ζάω 動詞 不定詞/現在/能動態 生きる
οὐκ οὐ 否定辞 この語は変化しない ~ない
ἄξιος ἄξιος 形容詞 男性/単数/主格 (不定詞)する価値がある
ὅτῳ ὅστις 不定関係代名詞 男性/単数/与格 ~するところの人(物)は誰(何)でも
μηδέ μηδέ 否定辞 この語は変化しない また~でない
εἷς εἷς 数詞 男性/単数/主格 1
ἐστι εἰμί 動詞 三人称/単数/現在/直説法/能動態 ~である, 存在する
χρηστός χρηστός 形容詞 男性/単数/主格 役に立つ, よい
φίλος φίλος 形容詞 男性/単数/主格 親しい

脚注

εἷς 「1人」(P.145, §191. 参照)。

出典と翻訳

不明。

ただし、デーモクリトスの断片(リンク先では209[162], 断片の出典はデーモクラテース, 65)として

ζῆν οὐκ ἄξιον ὅτεῳ μηδὲ εἷς ἐστι χρηστὸς φίλος.

があり、ここでのὅτεῳは不定関係代名詞ὅτῳの叙事詩形であることを考えると、同じ趣旨の文であろうと思われる。

課題文と引用文では主節の形容詞がἄξιοςἄξιονで異なる。 これは恐らく課題文では形容詞が男性/単数/主格であることから

ζῆν οὐκ ἄξιος (ἐστὶν οὗτος), ὅτῳ μηδὲ εἷς ἐστι χρηστὸς φίλος.

のように男性/主格となるような先行詞が省略されていると考え、ὅτῳ以下のようである「そのような人(οὗτος)」はζάωするἄξιοςがない(οὐ)、のように読んでいるであろうことに対して、引用文では

ζῆν οὐκ ἄξιον (ἐστὶν) ὅτεῳ μηδὲ εἷς ἐστι χρηστὸς φίλος.

のようにζῆνを先行詞(不定詞を名詞的にとらえるときは、中性/単数で考える, P.20, 練習5.8の注記参照)に読んで、ὅτεῳ以下のようにζάωすることはἄξιοςではない(οὐ)、と読んでいるように感じる。 この場合は不定関係代名詞は中性で読んでいる(与格なので男性と同形)ことになると思われる。

メモ

ζῆνζάωの不定詞だと把握することが、本課題文の主旨と思われる。 ただし、P. 56の単語欄にも書いてある通り、ζάωはかなり特殊な変化をする。

主節の形容詞がἄξιοςと男性/単数/主格になっているので、これは恐らく省略されている先行詞が男性/単数なのであろうと推察される。 単にἐστί(ν)が省略されていて、ζῆνἄξιοςではない(οὐ)というのであれば、形容詞はἄξιονのように中性/単数と解釈できる形であるハズと思われるから。

また形容詞ἄξιοςを名詞的に読むとき、この語はφίλοςのように名詞的に読むことが一般的ではないので、定冠詞が付くのではないかと思われる。 定冠詞を付けずに名詞的に読むとしても、それは「ἄξιοςな人/男性名詞で表されるような何か」と解釈され、他から推察される文意から「ἄξιοςな人」となる。 そうすると主節でどちらを主語に読むか、だが、

となり、関係節とのつながりが悪いように思える。 従って本課題文では、主節にcopula文としての動詞ἐστί(ν)と先行詞として男性/単数/主格のοὗτοςが省略されている、として読むことにする。

巻末の語彙集にはἄξιοςは「(属格の)価値がある」しか訳語がないが、LSJ, ἄξιος, II.3には、不定詞と共に(c. inf.)「(不定詞)する価値がある(worthy)」という訳語を挙げている。 本課題文には属格が出てこないので、この不定詞と共に使われるものであると考える。

不定関係代名詞ὅτῳの与格は、恐らくは所有の与格(P. 33, §55.)。

またμηδέは、このような場合では一般的にはουδέが使われることが多い。 否定辞のμήοὐを比べたとき、οὐはある特定された対象を、μήはあまり限定されない対象を否定することが多い。 ここでは敢えてμηδέを使うことによって、一般的な/特定の状況に限定されないニュアンスを出そうとしているのかもしれない。

形容詞φίλοςは、ここでは名詞的に読んで「友人」と解釈する。

まとめると、「χρηστόςφίλοςが1人(εἷς)もいない(μηδέ ἑστι)人(省略が想定される先行詞οὗτος)はζάωするἄξιοςがない(οὐ)」くらいの内容が本課題文の文意と思われる。


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