練習 10.3
課題文
ἁπλοῦς ὁ τῆς ἀληθείας ἐστὶν λόγος.
語彙
文中の語 | 見出語形 | 品詞 | 変化形 | 主な意味 |
ἁπλοῦς | ἁπλόος | 形容詞 | 男性/単数/主格 | 単純な |
ὁ | ὁ | 定冠詞 | 男性/単数/主格 | にかかる |
τῆς | ὁ | 定冠詞 | 女性/単数/属格 | にかかる |
ἀληθείας | ἀληθεία | 女性名詞 | 単数/属格 | 真実 |
ἐστίν | εἰμί | 動詞 | 三人称/単数/現在/直説法/能動態 | ~である |
λόγος | λόγος | 男性名詞 | 単数/主格 | 言葉 |
脚注
特になし。
出典と翻訳
不明。
ただし、この課題文と似た表現で、同様の趣旨を持つ文は存在する。 アイスキューロス断片173(田中秀央 落合太郎 編著, ギリシア・ラテン引用語辞典, 岩波書店)
ἁπλοῦς ὁ μῦθος τῆς ἀληθείας ἔφυ.
真実の言葉は単純なり
(田中秀央, 落合太郎 訳)
がある。 ここでἔφυは「生じる(bring forth)」くらいの意味を持つ動詞φύωの三人称/単数/アオリスト/直説法/能動態。 この文に限っていえば、英語のbe動詞的な意味合いで使われている。 ここでのアオリストはいわゆる「格言のアオリスト」を表していると思われる。 μῦθοςは、ここでは「言葉」くらいの意味。 他に「会話」や「作り話」といったニュアンスもある、英語mythの語源。
また断片176(ギリシア悲劇全集 10, アイスキュロス断片, 岩波書店)『武具争い(ΟΠΛΨΩΝ ΚΡΙΣΙΣ)』断片とした場合、これはストバイオス3. 11. 14がその根拠になっているようで、これは
Ἁπλᾶ γάρ ἐστι τῆς ἀλητείας ἔπη.
というのは、真実を語る言葉は単純であるのだから。
(逸見喜一郎, 川崎義和 , 高橋克美 訳)
となっている。 ここでἔπηは「言葉」を意味する中性名詞ἔποςの複数/主格。 これと性/数/格を一致させるために形容詞ἀπλόοςもἁπλᾶのような形になっている。
さらにエウリーピデース, フェニキアの女たち, 469行目にもアイスキューロス断片173と同じ
ἁπλοῦς ὁ μῦθος τῆς ἀληθείας ἔφυ,
が見えることから、当時はこういった内容の慣用句があったのかもしれない。
メモ
ἁπλοῦςはアッティカ語形。 テキストの見出し語はἁπλοῦςになっているが、辞書によっては(例えばLSJ)ἁπλόοςであるかもしれない。 ケンブリッジの中辞典では、見出し語はἁπλοῦςになっている。 このἁπλοῦςがP. 41, §61.の変化をすると把握するのが、この課題文の主旨と思われる。 男性/複数/対格も同じ語形ではあるが、そう読むと文意が通らない。
定冠詞ὁと男性名詞λόγοςの間にτῆς ἀληθείαςがあり、形容詞の限定的位置(P. 12, §21.)を取っているのと同様に考えればよいであろうことがわかる。 つまり形容詞ἁπλοῦςは動詞ἐστίνによって述語になっている、と考える。
まとめると、「ἀληθείαのλόγοςはἁπλοῦςである(εἰμί)」くらいの内容が文意と思われる。