練習 5.7
課題文
ὁ ἀγαθὸς ἄνθρωπος ἐκ τοῦ ἀγαθοῦ θησαυροῦ ἐκβάλλει ἀγαθά, καὶ ὁ πονηρὸς ἄνθρωπος ἐκ τοῦ πνηροῦ θησαροῦ ἐκβάλλει πονηρά.
語彙
文中の語 | 見出語形 | 品詞 | 変化形 | 主な意味 |
ὁ | ὁ | 定冠詞 | 男性/単数/主格 | ἄνθρωποςにかかる |
ἀγαθός | ἀγαθός | 形容詞 | 男性/単数/主格 | 善い, 立派な |
ἄνθρωπος | ἄνθρωπος | 男性名詞 | 単数/主格 | 人間 |
ἐκ | ἐκ | 前置詞(対格) | この語は変化しない | ~の中から |
τοῦ | ὁ | 定冠詞 | 男性/単数/属格 | θησαυρῦにかかる |
ἀγαθοῦ | ἀγαθός | 形容詞 | 男性/単数/属格 | 善い, 立派な |
θησαυροῦ | θησαυρός | 男性名詞 | 単数/属格 | 宝, 宝蔵, 蔵 |
ἐκβάλλει | ἐκβάλλω | 動詞 | 三人称/単数/現在/直説法/能動態 | 投げ出す, 取り出す |
ἀγαθά | ἀγαθός | 形容詞 | 中性/複数/対格 | 善い, 立派な |
καί | καΙ | 小辞 | この語は変化しない | そして |
ὁ | ὁ | 定冠詞 | 男性/単数/主格 | ἄνθρωποςにかかる |
πονηρός | πονηρός | 形容詞 | 男性/単数/主格 | 悪い, 卑劣な |
ἄνθρωπος | ἄνθρωπος | 男性名詞 | 単数/主格 | 人間 |
ἐκ | ἐκ | 前置詞(対格) | この語は変化しない | ~の中から |
τοῦ | ὁ | 定冠詞 | 男性/単数/属格 | θησαυρῦにかかる |
πονηροῦ | πονηρός | 形容詞 | 男性/単数/属格 | 悪い, 卑劣な |
θησαυροῦ | θησαυρός | 男性名詞 | 単数/属格 | 宝, 宝蔵, 蔵 |
ἐκβάλλει | ἐκβάλλω | 動詞 | 三人称/単数/現在/直説法/能動態 | 投げ出す, 取り出す |
πονηρά | πονηρός | 形容詞 | 中性/複数/対格 | 悪い, 卑劣な |
脚注
ἐκはアクセントを持たない(練習5.4の注参照)。
出典と翻訳
Εὐαγγέλιον κατὰ Ματθαῖον(マタイによる福音書), 12.35。
33.
34.
35.
36.
37. あなたは、
(新共同訳)
メモ
καίを挟んで、前半と後半で同じ構造の文をつなげている。 前半と後半で異なるのは形容詞だけで、対称な構造を持たせることで、対比を強調しているように感じる。 冗長になりすぎるとかえって判りづらいので、説明は前半だけに行う。
それぞれの形容詞は定冠詞と名詞の間に入って限定的位置をとっている(直後の形容詞を名詞化しているわけではない)。
ἐκβάλλωはἐκ(~の中から)とβάλλω(投げる)からなる合成動詞。 単語欄にある訳語の他に「(ある場所の)中から(外へ)放り出す=追放する(cast out of place)」みたいなニュアンスを持つこともある。 人称語尾が-ειなので、三人称/単数。 時称接尾辞で未来を表すσがないので現在(/直説法/能動態)。
中性の形容詞は、ここでは名詞的に「~なもの」くらいにとらえると、文意に近いと思われる。 つまり、ἀγαθόςなἄνθρωποςはἄγαθόςなθησαυρόςの中からἄγαθός(なもの)をἐκβάλλωする、というのが前半の文意。
これをκαίで同じ構成の文をつないでいるので、ἀγαθόςなἄνθρωποςはἄγαθόςなθησαυρόςの中からἄγαθός(なもの)をἐκβάλλωする、そして、πονηρόςなἄνθρωποςはπονηρόςなθησαυρόςの中からπονηρός(なもの)をἐκβάλλωする、というのが全体の文意。
引用元を見てもわかるように、中性で表されているのは「言葉」。 言葉を意味する語は男性名詞のλόγοςが有名だが、中性名詞のἔποςというのもあり、ホメーロスでは
ἔπεα πτερόεντα προσηύδα
彼は翼を持った言葉を話しかけた
という定型句が頻出する。 このときも、「言葉」は複数で表されている。 このときの中性名詞が「複数であること」は、あまり厳密に訳さなくてもいいのかもしれない。 単に一語だけで済まないというだけではなく、そういった言葉(というか会話の内容)全体で一つのかたまりとしての概念を想定している可能性もある。