カリス, カリテス(複数)
Χάρις, Χάριτες
Charis, Charites(plural)

概要

優美の女神(たち)。 特定のエピソードはなく、登場する人物の優美の根拠として、また特にアプロディーテー女神を世話する女神たちとして描かれる。

ホメーロスの「イーリアス」では、カリスなる女神がヘーパイストス神の妻として登場する(イーリアス, 18巻382-383行)。 カリス(単数)なる女神は、女神テティスの来訪に気づいて、ヘーパイストス神を呼び出している(イーリアス, 18巻384-392行)。このカリスという名称が、一般に知られている優美の女神たちのうちの一人なのか、他のカリスという名の女神なのか、今一つ判然としない。

τὴν δὲ ἴδε προμολοῦσα Χάρις λιπαροκρήδεμνος καλή, τὴν ὤπυιε περικλυτὸς ἀμφιγυνήεις.

(イーリアス, 18巻382-383行)

と書かれていて、カリスの一柱ととることも、カリスという名前の他の女神ととることも可能と思われる。

出自

ゼウスエウリュノメーの娘たち(ヘーシオドス, 「神統記」, 907-909行 ; アポロドーロス, 「ギリシア神話」, 第1巻3.1)。

構成する女神たち

ホメーロス

ホメーロスに語られる中では、カリスたちの構成についてまとまった記述がない。 ただ、イーリアス14巻にカリスの一柱としてパーシテエーという名前が出てくる。

ヘーラー女神が眠りの神ヒュプノスに、ゼウスに眠りをもらたしてほしいと懇願するシーン(イーリアス, 14巻233-241行)がある。 最初、ヒュプノス神は女神の願いを渋っていた(242-262行)が、ヘーラー女神がカリスの一柱であるパーシテエーを娶せることを条件出す(263-270行)と、ヒュプノス神は喜んで願いを聞き入れた(271-276行)。

ヘーシオドス

アグライアーエウプロシュネータリエーの三柱(神統記」, 907-909行)。

アポロドーロス

アグライエーエウプロシュネータレイアの三柱(「ギリシア神話」, 第1巻3.1)。

ピンダロス

アグライアーエウプロシュナタリアの三柱(オリュムピア祝旋歌, 第14歌, 13-15行)。

異称

引用

ホメーロス,「イーリアス」,18巻382-383行

その姿をまず認めたのは、ちょうど家から出て来た典雅カリスの神女で、この頭髪を結わえたバンドもつやつやしく美しい女神を、世に聞こえた曲り足の神(ヘーパイストス)が妻にしていた。
(呉 茂一 訳)

ヘーシオドス, 「神統記」, 907-909行

Τρεῖς δέ οἱ Εὐρυνομη Χάριτας τέκε καλλιπαρῄους,
Ὠκεανοῦ κοῦρη, πολυήρατον εἶδος ἔχουσα
Ἀγλαΐην τε καὶ Εὐφροσύνην Θαλίην τ᾽ ἐρατεινήν·

さて 大洋オーケアノスの娘 容貌みめうるわしいエウリュノメ
ゼウスに 頬美しい優雅女神カリスたち すなわち
アグライア エウプロシュネ 愛らしいタリアを生まれた。
(廣川洋一 訳)

アポロドーロス,「ギリシア神話」, 1.3.1

ゼウスヘーラーを娶って、ヘーベーエイレイテュイアアレースを生んだが、多くの神と人の子の女と交わった。 天空ウーラノスの娘テミスより娘の季節ホーライの女神すなわち平和エイレーネー秩序エウノミアー正義ディケーを生み、またクロートーラケシスアトロポス運命モイライの女神たちを得、ディオーネーよりはアプロディーテーを、オーケアノスの娘エウリュノメーより優雅女神カリテスアグライエーエウプロシュネータレイアを、ステュクスよりペルセポネーを、ムネーモシュネー(=「記憶」)より先ず最初にカリオペー、次いでクレイオーメルポメネーエウテルペーエラトーテルプシコレーウーラニアータレイアポリュヒュムニアームーサたち(=「芸術の女神」)を得た。
(高津春繁 訳)

ピンダロス, 「オリュムピア祝旋歌 第14歌」, 13-17行

<ὦ> πότνι᾽ Ἀγλαΐα
φιλησίμολπέ τ᾽ Εὐφροσύνα, θεῶν κρατίστου
παῖδες, ἐπακοοῖτε νῦν, Θαλία τε
ἐρασίμολπε, ἰδοῖσα τόνδε κῶμον ἐπ᾽ εὐμενεῖ τύχᾳ
κοῦφα βιβῶντα· ....
さあ、女王アグライア
歌を愛するエウプロシュナよ、最強の神の
娘たちよ、耳を傾けたまえ、また歌曲をめでるタリアよ、
運に恵まれ軽やかに歩み行くこの祝賀行列を温かく見たまえ!
(内田次信 訳)

パウサニアース, 「ギリシア案内記」, 9.35.2

以上の名称も女神にふさわしいが、アテナイでの呼び名も似つかわしい。 アテナイでも昔からカリス女神アウクソヘゲモネを祀っている。 また、カルポは「優雅」女神カリスではなく、「季節」女神ホラの名である。 アテナイではもう一柱のホラ女神をタロと命名し、パンドロソスといっしょに祀っている。
(飯尾都人 訳)

ヘシュキオス, プロイティデスの項

Προιτίδες· χάριτες
プロイティデス カリテスに同じ。

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